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    五つの手当で「格差は不合理」/労契法20条で最高裁初判断/再雇用者には厳しい内容

     最高裁第2小法廷(山本庸幸裁判長)は6月1日、労働契約法20条に基づき、正社員と有期雇用労働者の不合理な待遇格差を訴える二つの裁判で、五つの手当についての格差を不合理と認め、高裁へ差し戻した。一方、定年後再雇用労働者については同一の仕事でも格差を是認する厳しい内容となった。最高裁が20条で判断を示すのは今回が初めて。今後の訴訟や労働条件への影響は必至だ。

     

    ●格差是正にプラス

     

     ハマキョウレックス事件は、浜松市内の物流会社で働く契約社員の運転手と正社員の間に労働条件の不合理な相違があるとして、契約社員らが(1)無事故手当(2)作業手当(3)給食手当(4)通勤手当(5)皆勤手当(6)住宅手当――を平等にするよう請求してきた。最高裁は待遇差に合理性があるかどうかではなく、不合理かどうかを判断すべきとし、大阪高裁が認めた四つの手当((1)~(4))に加え、皆勤手当の差も不合理だと判断。支給要件を満たしているか検証するため、皆勤手当については高裁へ差し戻した。住宅手当の不支給は不合理と認めなかった。

     原告側の中島光孝弁護士は、判決が各手当の性質・目的・趣旨を確定した上で、労契法20条が示す職務内容、配置変更と責任の程度、その他の事情を個別に検討しているとし、「下級審では総合的にまとめて事情を考慮する判決が多かったが、最高裁の判決で判断基準が整理された。非正規全体に波及し、格差是正はかなり進む」と評価した。

     原告の池田正彦さんは「少しでも手当が取れたのは喜ばしい。同じ非正規で働く人はこれから訴訟や交渉をしやすくなると思う」と語った。約束されていたはずの正社員の地位確認の棄却については「納得のいく判決ではない」と悔しさをにじませた。

     

    ●賃下げを容認

     

     定年退職後再雇用のトラック運転手3人が訴えた長澤運輸事件の判決は、東京高裁判決の一部を取り消し、精勤手当の不支給のみ不合理とした。住宅手当などの請求は棄却した。

     宮里邦雄弁護士は、判決で定年後再雇用にも労契法20条の適用が明らかになったとしつつ、問題点を指摘。(1)定年後再雇用は長期雇用を予定していない(2)老齢年金を受給予定である(3)定年後の賃金引き下げは一般論として不合理とは言えない――の3点が重視され過ぎていると批判した。

     職務内容が同じなのに賃下げしたことが不合理ではないとした判断は容認できないとした。「定年後再雇用の特性に著しく傾斜しており、職務内容を基軸にした判断ではない。引き下げ容認が社会的に妥当なのか、疑問に思う」と述べた。その上で「判決はこの事件個別のもの。定年後再雇用の賃金引き下げは法的に容認されるという誤解が生じないよう、正確な理解を」と強調した。

     同じ原告で勤続38年の鈴木三成さんは「納得できない。定年退職だからというが、同じ仕事なのに、60歳になったら賃下げという、わけのわからないことを認めた。全く不合理」と怒りを隠さなかった。

     二つの裁判を支援してきた全日本建設運輸連帯労働組合の小谷野毅書記長は「ハマキョウレックスの判決によって全体的に労働条件が上がるかもしれないが、運輸業界は今、長澤運輸のように年配の人に頼らざるを得ない状況だ。物流や人流を支えている人たちに過酷な判決を下した」と訴えた。

     

    〈写真〉最高裁前で「不当判決」と報道陣に訴える宮里弁護士(右から2人目)と長澤運輸事件原告ら