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    〈インタビュー〉高プロ制は欠陥法案だ・下/浜村彰法政大学教授/ブラック企業の悪用許す

     対象業務を「従事した時間と成果との関連が高くない業務」とした要件も、限定する効果はありません。営業職は必ず成約を得られるわけではなく、現業職のタクシー運転手だって客を拾えなければ収入を得られません。この要件ではほとんどのホワイトカラーが当てはまります。

     「高度の専門的知識」という要件も、改正前の労働者派遣法を思い出してください。専門26業務の事務用機器操作やファイリングなど、専門的とは言えない業務があり、何の規制にもなりませんでした。

     年収1075万円という要件もすぐに引き下げられるでしょう。経団連は13年前に年収400万円を主張していました。

     維新の会との修正合意で高プロ制適用からの離脱権を法案に明記することとなりました。ないよりはましです。ただ、離脱した途端に人事考課を下げられるならば意味がありません。離脱を通告した瞬間に通常の労働時間規制が適用されることと、不利益扱いの禁止が必要です。

     

    ●「交渉力ある」の虚妄

     

     「成果で働く」というなら、成果主義賃金制度の設計も検討する必要があります。2000年代には成果主義導入は大失敗だったと騒がれました。この議論は全く無視されています。

     成果主義は、基準の設定と公平な運用、苦情処理の三つの要件が必要です。成果を上げれば正しく評価され賃金が増える、なんてことは絶対にありません。日本では情意評価が主流ですから。上司の覚えめでたくなければ不当に評価されることはざらにあります。

     高収入の人ならば交渉力があるという政府の説明も全く説得力がありません。経営陣と対等に交渉できる中間管理職なんていますか?今話題のアメフト部監督のような人が上司なら交渉なんてできっこない。孤立を恐れず物申せる人はほとんどいないでしょう。

     連日24時間労働が違法ではないという指摘に、「そんなことは起こり得ない」という「反論」も聞こえます。しかし、実際に東証1部上場企業の電通で起きたことです。過労自死した新入社員の女性は、連続53時間勤務し「殺されても放すな。目的を完遂するまでは」という「鬼十則」の社訓を読まされていました。常識では考えつかないことが起きるのが「ブラック企業」です。こうした事態への歯止めが法案には何もありません。

     

    ●労組は街頭で発言を

     

     法案は衆院を通過しました。労働組合はぜひデモを行うなど、街頭に出て発言してほしい。野党が弱小な下では、大衆運動を盛り上げなければ悪法は阻止できません。実際声をかければ国会周辺に集まる人は多い。連合が「高プロはだめだ」とやればみんな集まりますよ。本当にそれぐらいのことをしなければならない状況だと思います。