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    労働時評/連合が部門共闘強化を提起/どうなる相場のけん引役

     連合は2018春闘の中間まとめで、初めて金属製造、流通、化学など五つの部門共闘強化の検討を提起した。パターンセッター(相場形成のけん引役)に関わる新たな提起として注目される。主要産別幹部に見解を聞いた。

     

    ●象徴的なトヨタの離脱

     

     提案では、部門強化について「春闘相場の波及へ今春闘では部門共闘連絡会議で情報交換内容を統一し、要所で連合と合同の記者会見を行った。部門軸で共闘強化に努めたことは部門ごとの交渉環境の醸成と社会的波及効果の強化につながった」としている。

     部門共闘連絡会議は賃上げ停滞の是正に向け09年に結成。金属、流通、化学、交通・運輸、公益など5部門42産別で、社会的賃金水準の形成と相場波及をめざし、主要370組合の賃上げ額を公表している。

     共闘強化の目的は「日本の経済・社会構造の変化を見据えた闘争」「春闘のメカニズムを社会に広がりを持った運動としていくための共闘体制と諸行動」の実践である。

     17春闘では相場の目安とされていた金属大手の低率ベア0・4%程度に対し、UAゼンセン、NTT労組、フード連合などが金属を超えるベアを獲得。内需産別が「春闘は大手金属だけではない」との気概を見せた。

     18春闘ではさらに回答に変化が生じている。妥結水準は、金属など製造業で昨年比プラス86円に過ぎないが、商業・流通では同プラス598円を獲得した。

     春闘相場の目安とされるトヨタは先行回答からの離脱と、ベアを非公開(ベア隠し)としたほか、諸手当込みの「多様な昇給」を推進。また「大手追随・準拠からの構造転換」で中小のベア率が大手を上回り、非正規労働者のベア率が正社員を超えるなど構造変化を見せている。

     一方、全体の賃上げ水準は、かつてない有利な情勢下でも連合のベアは0・5%程度と低く、会見では「金属のパターンセッターを今後見直すのか」との質問も出された。連合の相原康伸事務局長は「金属をパターンセッターとするスキーム自体見直されてきている。5部門の共闘連絡会議の取り組みの姿がそれを示している」との見解を4月に表明していた。

     

    ●進む、業種・地域共闘

     

     主要産別幹部は部門共闘の強化について肯定的に評価する方向だ。金属労協の高倉明議長(自動車総連会長)は「今春闘で初めて金属労協は集中回答日(3月14日)の記者会見で連合金属部門の看板を出した。金属は部門共闘として進んでいる。他の部門の機能強化が重要だ。連合と思いは同じであり、しっかり応対したい」と語った。電機連合の神保政史書記長も「電機は金属労協強化(のスタンス)だが、春闘相場の波及拡大へ連合の部門強化は理解できる」と語る。

     UAゼンセンの松浦昭彦会長は会見で「相場形成は先行回答日程とも関わるが、人手不足を背景に非正規労働者や中小企業の賃上げでは私たちがリード役を果たしている。大手金属を上回るベア水準の獲得も、メディアが取り上げるようになってきた」と歓迎する。

     JAMの安河内賢弘会長は、金属労協の中で最高のベアを獲得した妥結結果に触れ、「雲の上の大企業のベアではなく、大手組合と地域共闘の牽引で春闘の脱皮を図った歴史的転換の春闘」と変化を強調した。

     JRや私鉄、運輸などの労組でつくる交運労協も政策実現、春闘要求実現をめざして初めて3千人規模の春闘集会を計画するなど行動を強めた。

     

    ●変化を迫られる春闘

     

     産業構造の変化では、グローバル化への対応で製造業が海外に軸足を移し、日本経済に占めるサービス・流通など内需産業の重みは増している。総合電機メーカーの日立は「日本は世界市場の一つ」との経営戦略だ。トヨタは東京の高級自動車販売店でカメラ、カバン、化粧品、文房具などを販売し、「製造業からサービス業への転換」(豊田章男社長)をめざし、情報産業との国際的な連携も強めている。

     今後、第4次産業革命など各産業の複合的な構造転換とも絡みながら、春闘の態勢変化が予想される。

     

    ●「自動車に力はない」

     

     春闘改革について連合は運動停滞の打開へ向け、1995~04年にも「パターンセッター見直し・春闘改革論」を提起していた。骨子は「好業績でパワーのある組合で先行相場形成」「不況業種の妥結を遅らせる」「ストを背景とする闘いと組織拡大」などである。ベア春闘の再生・強化へ、フード連合やゼンセン、JAMなど7産別は07年に有志共闘を結成した。

     春闘の牽引役に関わっては、63年の歴史の中で変遷がある。春闘は私鉄総連など8単産共闘の先行パターンセッターによる「高額春闘相場」の形成・波及で始まり、74年に国労、私鉄など「交運ゼネスト」を背景に32・9%の高額相場を形成。その後、相場抑制を狙った財界の「パターンセッター再検討」の動きと絡んで、75年から鉄鋼労連を軸にしたJC(金属労協)春闘が始動。その後、電機、トヨタへとけん引役が移っていく。

     しかし近年、金属超えベアなど変化も見え始めた。労働社会学者の高木郁朗氏はパターンセッターについて、自動車にけん引する力は既になく、輸出依存型産業から内需型産業主導への変化を提唱している。好業績でありながら、賃上げが物価上昇分を下回る賃金デフレと分配のゆがみの是正へ、部門共闘強化と総がかり春闘体制の構築が注目される。(ジャーナリスト 鹿田勝一)