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    「本質は無期転換逃れ」/旧東京日仏学院の非常勤講師/賃下げの新契約留保し提訴

     フランス語講座などを行っているアンスティチュ・フランセ日本の東京支部(旧東京日仏学院)で働く非常勤講師3人が7月2日、不利益変更以前に結ばれた雇用契約の適用(地位確認)を求め、東京地裁に提訴した。

     原告側の指宿昭一弁護士によると、使用者側は今年2月、「賃金を下げて無期雇用にする」として、4月1日以降の契約更新を迫った。組合員は賃金の引き下げには応じないという留保を付けて契約を結ぶ「留保付き承諾」を行ったという。一般に留保付き承諾は、承諾拒絶とみなされ(民法528条)、解雇事件に発展することが多い。ところが、4月1日以降も従来通り勤務は継続。この状況では、民法629条(文末に用語解説)により、以前と同じ労働契約が更新されたものと見なされるため、引き下げられた賃金の回復を求めて地位確認の提訴に踏み切った。

     使用者側は、原告らの加入する東京ゼネラルユニオンとの団交で、パリ本部の規定で無期雇用の人数に制限があることなどを理由に無期転換逃れを明言し、労働条件の引き下げを強行したのだという。組合は昨年、労働局への申告と労働委員会への救済申し立てを行った。

     原告の一人、レット・フランソワ・グザビエさんは、1999年から働いている。授業の予定は直前に決まるため、他の仕事で収入を得るのは困難。その上、生徒数によって賃金が変動し、生活は不安定だ。

     「私の授業は批判を受けたこともないのに今回、賃金を約4割も下げられた。新しく入った講師は賃金水準がさらに低く、同僚間の競争が激しくなっている」と訴えた。

     指宿弁護士は「民法629条で争うが、本当の争点は労契法18条の無期転換ルール」と指摘。フランス政府がアンスティテュ・フランセ日本の実質的な運営者であることを問題視し、「政府公式機関が無期転換ルールの適用を機に賃金を下げるのは、日本の労働法を無視した暴挙だと言われても仕方ない。フランス政府には考え直してもらいたい」と批判した。

     

    〈用語解説〉民法629条1項

     

     有期契約を結ぶ労働者が、期間満了後も継続してその労働に就き、使用者がそのことを知りながら異議を述べない場合、従前と同様の条件で雇用されたものと推定される。「有期労働契約における黙示の更新」といわれる。

     

    〈写真〉「生活水準が下がり、大変な状況だ」と語るグザビエさん(左)(7月2日、都内)