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    労働時評/AI化と非雇用就労者の拡大/労働者保護の議論始まる

     人工知能(AI)などの技術革新によって就労環境が変化する中、個人として仕事を請け負い、働きながらも労働法制が適用されない就労者の保護について、厚生労働省の労働政策審議会労働政策基本部会が報告書骨子をまとめた。非雇用就労者の実態と保護に向けた、労働組合を含む国内外の動向を紹介したい。

     

    ●交渉力弱く、不安定

     

     雇用関係によらない働き方は、労働時間規制や最低賃金などの労働者保護制度が適用されず、無権利状態にさらされる。一方、企業は解雇の規制や社会保険料の負担がないなど、都合のよい働かせ方となる。

     連合と連合総研が昨年12月、個人請負とクラウドワーカー(インターネットを介した不特定多数の業務委託契約)の調査報告をまとめた。

     非雇用就労者は100万人を超え、今後も増加は必至とされている。実態調査は個人請負で2312人、クラウドワーカーで619人。個人請負で多い職種は建設現場作業・建築土木が13%、営業・販売12%、情報処理技術10%、出版・マスコミ4%など。クラウドワーカーでは製造業18%、サービス業17%、卸・小売10%、医療・福祉5%などとなっている。

     個人請負の年収平均(2016年)は328万円だが、建設442万円、講師・インストラクター227万円などばらつきがある。クラウドワーカーは119万円と低い。非雇用就労者は交渉力が弱いのが特徴だ。

     

    ●労働者概念の拡大を

     

     報告骨子の概要は、技術革新による第4次産業革命による雇用、労働への影響や生産性向上、人材育成、労働移動など働き方を課題に、「法的保護の必要性を検討」としている。

     保護のあり方では、「雇用類似の働き方」について(1)労基法の労働者性(事業に使用されている者)の範囲を解釈で拡大する方法(2)労組法の労働者(賃金、その他これに準じる収入で生活する者)の概念を拡大する方法(3)社会保険など労働関係法令の保護の拡張適用――を提起している。副業・兼業では労働時間管理のあり方や労災補償の検討も挙げている。

     今後、諸外国の議論も参照しながら9月から議論が始まる。古賀伸明委員(連合総研理事長)は「働きながら労働法制が適用されないのは問題。欧州のように労働者概念の拡大による保護が必要だ」と語る。

     

    ●アニメ、金属で労組

     

     個人請負などの規制と保護へ労働界も動き始めた。

     映演労連は「アニメ産業改革の提言2018」を5月にまとめた。

     アニメ関連労働者は4千~6千人とみられ、約50%が「雇用契約によらない働き方」を余儀なくされている。アニメ産業は市場規模が2兆円を突破する一方、アニメーターなどの困窮は改善されていない。

     月収は10万円以下の固定給と歩合(動画1枚200~300円)で年収平均は110万円にとどまる。就労場所は91%が特定の制作会社で、制作締め切りに追われ作業時間は月平均262時間と過酷な実態に置かれている。

     映演労連の梯俊明書記長は「労働現場の疲弊が改善されない限り、日本アニメに展望を見出すことはできない」と強調する。産業改革の提言では6項目の労働環境改善を主張。報酬の最低保障を月16万6000円(東京の最賃×173時間)に設定した。長時間・深夜労働の改善では勤務間インターバル規制11時間の導入を盛り込んだ。偽装請負の解消や組合加入も呼びかけている。同労連は企業、厚労省、経産省、文化庁、自治体などへの要請を強めている。

     交運産別はライドシェア(白タク合法化)政策阻止へ連合、全労連、中立系の8産別が共闘を強化。自動車総連などが加入する金属労協はAIなど第4次産業革命と労働課題で政策研究を行っている。

     

    ●欧米では規制強化へ

     

     欧米ではインターネットを介したシェアリング・エコノミーの拡大に対し、政労使が規制に力を入れている。

     ドイツでは第4次産業革命への対応策で「労働4・0」を提起。労組と使用者団体、消費者団体、政府で「社会的基準」の合意形成を提言した。雇用労働者に近い「請負労働者」を産別協約の保護規定に盛り込む構想も検討されている。

     英国政府は「雇用法上の権利の明確化」など七つの提言を策定。フランスは職種により立法で「労働者」と「労働者と同視される者」とする手法を探っている。米国は「雇われずに働く者」が労働力人口の36%、5730万人を占める中、「フリーランサーズ・ユニオン」が事業者と提携しながら労働者保護の運動を展開している。

     

    ●労働法制の破壊阻止へ

     

     日本では、2030年度までに第4次産業革命による雇用減少が750万人に上ると経産省は試算する。大規模な労働移動や非雇用就労者の拡大も予測され、早急な対策が求められる。

     就労保護では、労働者概念を広げるべきとし、就労の実態から「時間的・場所的拘束性」「報酬の労働対価性」「経済的従属性」などを考慮すべきとの見解が多い。

     保護の内容は「非雇用就労者の最低報酬」「解約、違約金などの紛争解決」「スキルアップ支援と仕事の公正な評価制度」「労働組合・同業者団体との集団的労使関係」「労働協約の拡張適用」の検討である。

     安倍政権は、労働法が適用されない就労者を増やす方向だ。それに伴って進む労働法制破壊の阻止へ、労働界と野党の共同闘争が重要である。(ジャーナリスト 鹿田勝一)