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    〈強まる経産省主導行政〉中/労働者保護政策を目の敵に/悲願だった高プロ制導入

     労働法や雇用政策を担当する省庁は厚生労働省のはずだ。しかし、2000年代に入ると、経済産業省がこの分野に口出しをするようになった。日米の経済界と二人三脚で「改革」を提起し始めたのだ。

     

    ●労働法を問題視

     

     02年7月には、経産省の産業構造審議会新成長政策部会サービス経済化・雇用政策小委員会が報告書をまとめている。タイトルは「サービス経済化に対応した多様で創造的な就業システムの構築へ向けて」。労働分野の規制が緩い米国社会を参考に、生産性向上に寄与する仕組みづくりを提起した。

     日本の労働行政について(1)長期雇用(2)最低労働条件の保障(3)団結権確保(4)失業時の保障――など「保護的・保障的政策」が前提になっており、生産性向上を図る上では「必ずしも十分ではなかった」と指摘。見直しが必要だと結論付けた。「労働」を産業政策の一分野と位置付ける流れの始まりである。

     同小委員会には、リクルートワークス研究所など人材ビジネス系の研究者や、トヨタ、新日鉄といった大企業の労務担当部長が委員として参加していた。委員の一人、小嶌典明大阪大学大学院教授は、政府の総合規制改革会議の人材(労働)ワーキンググループの責任者でもあった。

     その総合規制改革会議がまとめた規制改革推進3カ年計画には、後の高度プロフェッショナル制度に名を変えるホワイトカラーエグゼンプション(WE)や解雇の金銭解決制度の検討が盛り込まれていた。

     

    ●断念後に巻き返しへ

     

     厚労省は当時、閣議決定された方針に逆らえず、労働政策審議会で議論し、労働側委員が反対する中でWEの導入を答申。06年に発足した第1次安倍政権が導入を推進したものの、「残業代ゼロ法」「過労死促進法」などと反対に遭い、断念に追い込まれた。

     だが、経産省は諦めなかった。07年から巻き返しを図るべく、同省が管轄する独立行政法人の経済産業研究所内に「労働市場制度改革研究会」を立ち上げて、理論武装を開始。働き方の多様性と自律性を高めるような労働市場の新たな制度・仕組みづくりを目的に議論を重ねた。

     この研究会の主要メンバーだった樋口美雄慶応大学教授らが第2次安倍政権の「働き方改革実現会議」に参加して、「改革」を推進したのである。

     

    ●生産性向上が目的?

     

     第1次安倍内閣の時にような失敗を繰り返さないため、労働組合や厚労省内部の抵抗を抑える必要があった。この点で、当時、労働行政をウオッチしていたジャーナリストが注目するのは、厚労省に出向して経産省に戻った、あるキャリア官僚の存在だ。「長時間労働の是正」「同一労働同一賃金」など、厚労省が拒否できないテーマを前面に押し出して、高プロ制などの導入を図る手法を推奨したのだという。このジャーナリストは「働き方改革を主導したのは経産省ですよ」と言い切る。

     通常国会で高プロ制を含む「働き方」関連法は成立した。経産省にとっては、15年以上前からの悲願を達成したことになる。

     しかし、これで終わったわけではない。解雇自由につながると懸念される金銭解決制度の検討が再開した。労働法の適用が困難な「雇用関係によらない働き方」の具体化も進められている。関連法では、「生産性向上」を雇用政策の目的に追加することまで行われている。

     労働行政は、「労働者の保護」から「企業利益に貢献する行政」へと、大きくかじが切られたのかもしれない。