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    権利意識の芽生えを実感/ワークルール教育の実践例

     全国民主主義教育研究会全国大会での分科会では、ワークルールをめぐる権利教育の実践も報告された。

     

    ●ブラックバイトも教材

     

     ワークルール教育の実践を報告したのは神奈川県内の高校教員だ。この高校では、生徒の多くが在学中からアルバイトで働き、卒業後は約半数が就職する。

     昨年度は3年生に6時間分のワークルール授業を実践した。雇用情勢、契約書の読み方、労働法クイズや社会保険労務士による授業などで構成。教材には、DVD「いまそこにあるユニオン」(全労連制作)なども使用した。卒業間近の生徒たちは関心が高く、今年度も実施予定だ。

     授業を通して自分たちの労働問題に目を向ける生徒も出てきた。テスト前のシフト入り強要、セクハラ、最賃未満の時給、違法な深夜残業――。報告者は、アルバイトを始める前に基本的なワークルール教育の必要性を確信したという。

     「2年生にもなれば、生徒のほとんどが非正規労働者。バイトそのものを題材にしたら、自ら学ぶ生徒も増えるのではと思った」

     今年度は1年生と2年生の授業で3時間、ブラックバイトに焦点を当てた。教材には早稲田大学学生部生活課の「ブラックバイト対処マニュアル」を使用。生徒自身によるマニュアル作りを目標に設定した。アンケートで生徒自身の労働環境を調査した。(1)シフトトラブル(2)賃金・残業代(3)休憩・休暇(4)パワハラ(5)職責――の五つの事例ごとにグループで根拠となる法律を調べ、対処法と応援メッセージを作成し、発表した。

     最後の授業で生徒がつぶやいたという。「先生、ムカついてきた」。バイト先でこき使われる怒りとともに、自ら学び、権利意識が芽生えた瞬間だ。報告者は「基本的なワークルールを学び、対処法を理解することで、権利を『わが事』として感じる。バイトを続けながら高校生活を送る上で必須だ」と話す。

     生徒の感想には、「この学校だけでこんなに多くの事例がある。日本全体ではもっと悪質なことが起きているのでは」「バイト先の都合で自分の自由がなくなると、生活だけでなく心の自由もなくなってしまう」などの声も寄せられた。

     教師らは生徒から労働相談を受けた後も見守っている。「自分の労働環境がおかしいと気づいていない生徒や諦めている生徒もいる。今後も労働者の権利教育に取り組む」と語った。

     

    ●変質しつつある人権教育

     

     中学校での基本的人権や平和学習の実践、大学での憲法教育なども報告された。ある公立大学の教員によると、基本的人権を特権と理解したり、人権は義務や責任を果たした人に認められるものと考えたりする学生が少なくないという。

     この教員は「(個人の尊重などの)憲法的価値に照らして、このような考え方は間違いだから克服すべきと言っていいのか。思想・良心の自由を踏まえると、成績を付ける立場の教員がどこまで踏み込めるのか」と悩ましい表情を見せた。

     約40年のキャリアを持つ元高校教員は、最近の公民の教科書では、人権学習が社会のルールを守るモラル学習のようなものにすり替わっていると指摘。権力と闘い、人間らしく生きる権利を勝ち取った事例紹介が減っていると分析した。

     その上で「価値観の押し付けとは区別しなければいけないが、(人権を特権とするような)議論を展開すれば、ファシズムも許されてしまう」と危機感をあらわにした。「(自民党が提起した)改憲4項目が出され、国民投票が進められる時、教員は子どもたちに何を語るのか。最終的には生徒の思想・良心の自由を尊重しつつも、教員には憲法の価値観を伝える工夫が必要だ」と訴えた。