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    〈働き方関連法での連合東京セミナー〉下/最高裁判決で格差是正へ/水町勇一郎東大教授が講演

     働き方関連法の生みの親である水町勇一郎東大社研教授は、雇用形態間の不合理な処遇格差を禁じた改正について説明し、待遇差の解消には、賃金原資の増加による底上げが改正の要点だとあらためて強調した。正社員との処遇格差の当否を争い、最高裁が企業に是正を求めたハマキョウレックス事件などの判決内容にも言及。「今すぐに是正を」と自社の点検を呼びかけた。

     

    ●正社員賃金の見直しを

     

     改正法では労働契約法20条(不合理な格差の禁止)を削除し、パート労働者と有期雇用労働者を一括して規制することになる。水町教授は該当する「パート有期法」8条と14条に注意を促した【表】。

     8条は「不合理な待遇の禁止」。事業主に対し、基本給、賞与、その他の待遇の「それぞれ」に関して、「性質」と「目的」に照らして不合理な差を設けてはならないとしている。不合理か否かは、均等・均衡処遇が保たれているかを検討して判断される。

     同教授は「それぞれの待遇について個別に判断する方式。基本給や手当をひっくるめて全体として大差がないなどと、大風呂敷で比較するのは駄目」と話す。その上で「職務内容と配置の変更範囲が同じ場合は、同じ処遇にする『均等』が、異なる場合はバランスを取る『均衡』が求められる。手当の大半については均衡が求められる。正社員には一時金を支払いながら、非正規社員にはゼロとか寸志ということは認められない」と強調した。

     もう一つのポイントが14条の説明義務だ。事業主に対し、待遇差の「内容」と「理由」について説明義務を課している。教授は「差の理由を説明できないと(不合理でないとは)認められない。性質、目的に照らして説明できるよう格差の幅寄せを」と述べた。

     例えば、通勤手当は通勤費の補助という目的だから、雇用形態の違いは関係ない。差を設ける合理性は乏しいということになる。

     比較対象となる正社員の処遇についても、矛盾のない「リーズナブル(合理的)」な制度とするよう労使の取り組みを呼びかけた。

     待遇差が不合理か否かを裁判所が判断する際、労使交渉の有無が重要なポイントになるという。その際「たとえ合意があっても、非正規労働者が組合に加入していなければ、声が反映されていないとして裁判所では考慮されない」と指摘。法改正を機に組織化を進めるよう呼びかけた。

     正社員の処遇引き下げによる均等・均衡化も懸念される。「格差是正には賃金原資が一定(同額)ということでは駄目。原資をどう増やすか、そこをしっかり主張してほしい」と述べ、低位平準化は、所得の向上という「働き方改革の目的」に反する、と力説した。

     

    ●改正法に沿った判決

     

     運送会社ハマキョウレックスの非正規社員の運転手らが正社員との待遇差は不当と訴えていた裁判で、最高裁は6月、無事故手当や作業手当、給食手当、通勤手当、皆勤手当について「不支給・低額支給は不合理」との判断を示した。

     同教授は、最高裁が個別の待遇ごとに趣旨と性質を考慮し、均等・均衡処遇を検討した点で、「法改正に沿うような判決が示された」と指摘。改正法の施行を待つのではなく、今すぐにでも社内制度の点検と見直しを促した。

     定年後再雇用社員の賃金減額の是非が問われた長澤運輸事件でも、最高裁判決は基本給相当で1割、賞与を含む賃金全体で2割程度の差は不合理ではないとの判断を示した。しかし「長澤運輸の場合はこれだけの差が認められたに過ぎない。『定年後は下げ放題』ということが許されたわけではない」とくぎを刺した。