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    〈『生涯ハケン』への改正から3年〉(2)/直用化で人材流出に歯止めを/読売テレビ放送労組

     在阪準キー局、読売テレビ放送の労働組合は今夏、派遣労働の受け入れ延長に異議を表明した。人材流出に歯止めをかけられないことや、技術・技能継承に支障をきたしかねないこと、制作現場の疲弊が進むことなどへの危機感の表れだ。

     

    ●日常の組合活動が大切

     

     読売テレビの経営側は5月、派遣延長の是非について労組に意見を求めた。

     民放労連読売テレビ放送労組の藤井一也副書記長が驚いたのが、派遣労働者の受け入れ状況に関する詳しいデータが示されたこと。当初は全体の受け入れ人数と増減だけだったのが、組合がより詳細な情報を求めたところ、部署ごとの人数とその3年間の推移が分かる表が提示された。十分な情報提供を義務付けた法「改正」の副産物といえる。

     正社員約500人に対し派遣労働者は約800人。最も多いのが、放送技術分野で、報道、スポーツの番組制作を担う部署が続く。常に正社員の1・7~5倍以上いることが分かった。放送関連業務は改正前の専門26業務が多い。派遣受け入れの期間制限がなかった業務。「改正」で意見聴取義務が課され、労組が関われるようになった。

     組合は、9月末で受け入れが3年以上となる業務は「常用代替防止を原則とする法の趣旨に適合しない」として10月からの全員の直接雇用を主張し、3年未満の業務については2021年までの是正を求めた。さらに派遣労働者が全体で社員の1・5倍に及ぶ現状を問題視し、個人ごとの法定上限(3年)を迎える時点での直接雇用を訴えた【表】。

     経営側は、今後の視聴率の動向などにより番組制作業務が増減する可能性があるとして、派遣労働者の業務は「臨時的・一時的なもの」だと回答。常用代替に陥っているという組合の主張をはねつけた。藤井副書記長は「番組制作をしなくなれば放送局ではない。臨時的・一時的であるはずがない」と憤る。

     派遣延長には過半数労組の意見を聴くだけでよく、同意は不要。説明には納得できないが、組合としては矛を収めざるを得ない。

     「春闘など、通常の組合活動で直接雇用を求めていくことが必要だ。派遣労働者一人一人について個別に直接雇用を求めていくことや、労働契約の複線化を図ってでも直接雇用していくことが必要かもしれない」と話す。

     

    ●疲弊する制作現場

     

     常用代替が進むと現場にどんな影響があるのか。

     スポーツ報道に携わる守本貴則書記長は「社員の制作力が落ちるということ。例えば野球中継で本塁打の弾道を追えるカメラマンを自社で育てられているか。総合的に技能を身に付けてこそ新しい企画に挑戦できる」と話す。外注に任せきりにすると、「やらせ」のような不祥事を防げなくなるとの心配もある。

     放送局ではインターネット配信やデータ放送など業務が年々増加しているという。一方、特にリーマンショック(08年末)以降、経営側は固定費増を抑え、外注依存度を高めてきた。今後「働き方改革」で正社員の労働時間が制限される分、派遣労働者に負荷がかかると懸念される。

     同局は4年連続で在阪局視聴率トップ。「情報ライブ ミヤネ屋」など、毎日放送する「帯」の番組を三つ持ち、土曜日には生放送番組もある。業務をこなすためにアシスタントディレクター(AD)の派遣労働者が一昼夜続けて勤務することもあるという。

     「派遣会社の中には『テレビ局で働ける』と学生を囲い込み、教育もせずに送り込んでくる会社もある。ADには月35万円の派遣料金を払っているが、派遣会社が取るマージンや、税・社会保険料を差し引いた手取り額は20万円に満たない。かつかつの生活で、会社で寝泊まりし疲弊している」(同書記長)

     そのうえ放送業界は過酷な勤務実態から、かつてのような人気業種ではなくなりつつある。深刻な人手不足で、業界内の働き手の争奪戦は激しい。

     「優秀な人材は、東京のキー局に今より少しいい金で正社員として引き抜かれていく。一から教えたのに『今度東京に行きます』と言われるのはつらい」。

     

    ●組織化で雇用安定を

     

     同労組は、まだ数は少ないとはいえ派遣労働者を組織している。子会社だけでなく、資本関係のない派遣会社もある。守本書記長は「一番しんどい仕事をしている人の待遇を引き上げ、社員化を含めて生活が成り立つようにしたい」と語る。

     法改正から3年。派遣労働の是非を考える初の節目を迎えたが、世の中の関心は薄く、労働運動全体の動きも見えない。一企業の労組の力には限界がある。

     「働く者のための大きなムーブメントが必要ではないか」