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    〈『生涯ハケン』への改正から3年〉(1)/正社員への直接雇用求める/三重富士通セミコンダクター労組

     半導体製造の三重富士通セミコンダクターでは、派遣先である同社の労働組合(電機連合傘下)が3年受け入れ後の派遣延長に対して意見を表明し、直接雇用するよう求めている。法「改正」前から、派遣受け入れについては法の趣旨通りの運用を求め、過去には一部で正社員、契約社員への直接雇用につなげている。

     

    ●労使協議の対象に

     

     7月、経営側から三重富士通セミコンダクター労組に派遣労働の受け入れ延長に関する意見聴取の要請があった。同労組は「異議あり」とし、意見を付けた。

     一つは、今後3年間に個々の派遣労働者が3年の派遣期限を迎えるごとに、延長の可否を労使協議の対象とすること。もう一つは、これらの派遣労働者について「正社員あるいは契約社員に転換すべき」とした【概念図】。どちらも法律を上回る要求だ。

     成瀬豊委員長は「当初は『異議なし』とし、コメント欄で(あるべき論からすればまっとうだが)会社にとっては厳しい意見を付けることを考えた。しかし、執行委員会の議論で『組合の考えをはっきりと示すべき』となり、『異議あり』とした上で意見を丁寧に述べることにした」と話す。

     

    ●さいの河原の石積み

     

     直接雇用を求めた背景には職場の組合員の切実な声があった。

     生産ラインは昼夜2交替制。過去の繁忙期には年間で残業が300時間に及んだ年もあった。正社員は採用抑制で中高年が多く、残業は体力的にきつい。そのため正社員の残業を減らし、若い派遣労働者に上限ぎりぎりの残業を担ってもらっていたが、半導体特有の需要の乱高下により、16年夏には残業がなくなった。月約5万円の収入減。経験豊富な派遣労働者の大半が他の派遣先へと去って行った。

     その後業績が回復し、再び派遣を入れたが、現場には徒労感が漂っていた。

     「派遣労働者に教えるのは現場の組合員。がっくりくるわけです。せっかく育てたのに職場を去られ、また初心者を一から教えなければならない。さいの河原の石積みのようで、教えるにも身が入らなくなってしまう」

     直接雇えば人材を確保でき、当事者の意欲も高まる。初心者を繰り返し教育する負担も減る。派遣料金は上昇の一途だ。直接雇用すべきという組合の要求は一石二鳥にも三鳥にもなるはずだが、経営側は固定費増への抵抗感がある。

     

    ●改悪さえなければ…

     

     同労組は15年の「法改正前」から、法の趣旨に沿った派遣の受け入れ規制に積極的に関与してきた。

     12年暮れに業績が悪化。早期退職募集で行われた退職勧奨への反発から、退職者数は当初予定を超え、13年5月、リーマンショックの際にゼロにしていた派遣労働者の受け入れを再び開始した。

     労組はラインごとに業務量を精査。必要最小限の受け入れ人数に限定し、1年ごとの意見表明のたびに直接雇用を求めた。製造業務への派遣は当時3年を超えて受け入れることはできなかったため、最後の延長の際には1年後の全員直接雇用を強く求めていた。

     しかし、永続的な派遣利用を可能とする派遣法「改正」が15年9月に施行。成瀬委員長は「改悪さえなければ全員を直接雇用できていたのに」と悔しがる。

     その後の求人難により、16~17年度には20人近い直接雇用に結びつけている。労組の粘り強い主張が一部で実を結んだ形だ。

     

    ●「労組の同意」とすべき

     

     今回の意見聴取で経営側は、個人ごとの3年の派遣期間制限に触れる派遣労働者については、派遣元で無期雇用されているか、今後無期となる予定のため、当面職場を去る人はいない――と説明しているという。

     だが、無期雇用とはいえ、派遣労働であることに変わりはない。長期間働き続けてもらうならば直接雇い入れ、会社への帰属意識を培いながらキャリアを積んでもらうべき――そう訴えるが、経営側は「引き抜きになる。派遣会社との信頼関係が損なわれる」と、積極的ではない。

     改正前の旧法との違いについて、成瀬委員長は「改悪前は1年ごとに意見表明を行えたが、改悪後は3年ごと。その点では明らかに規制が弱くなっている」。

     政府は法改正の際、労組への意見聴取義務を課したので常用代替にはならない、と説明してきた。しかし、実際は「やはり弱いね。法的には聞きおけばいいだけだから。わが労組のようにしっかり意見表明し、労使協議できる組合はいいが、多くの組合はそこまでできていないのではないか。『派遣延長には労組の同意が必要』という規定にしない限り実効性は乏しいと考えざるを得ない」。