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    〈生涯ハケンへの『改正』から3年〉(5)/1カ月派遣実績ないとクビ?/「名ばかり無期雇用」の就業規則

     2015年の派遣法改正で政府は当時、「正社員化を促す改正だ」と強調していた。規制を弱めることで無期雇用に誘導する改正内容を念頭に置いたものと思われるが、実際のところ大手派遣会社の動きは鈍い。中には、無期雇用に転換しても、次の派遣先を1カ月間確保できないと職を失うという就業規則を設けた派遣会社もある。組合関係者は「名ばかり無期雇用」ともいうべき脱法行為の広がりを懸念する。

     

    ●違法が前提の就業規則

     

     就業規則の発行元は派遣大手「パソナ」の子会社。「退職」に関する項目で、退職日の定めと、無期雇用派遣社員が退職に追い込まれるケースとして次の条項を定めている。

     「会社が無期雇用派遣社員に指示すべき就業場所及び業務を1カ月間確保できず、会社が無期雇用派遣社員に指示できない旨を通知した日から暦日数30日が経過したとき」

     つまり、派遣終了後、派遣会社が次の仕事を1カ月間手配できない場合、会社の指示から30日後に雇用契約が解除されるということ。文言通り実行すれば、合理的理由のない解雇を禁じた労働契約法違反の疑いが濃厚だ。

     最終の規則改正の実施日は「平成30年(2018年)3月20日」。ちょうど改正労働契約法で、勤続5年の有期雇用労働者に無期転換申出権が本格発動した4月1日の直前の日付となっている。

     派遣ユニオン(全国ユニオン加盟)は9月に行った厚生労働省交渉で、この就業規則の問題を指摘。同省は9月24日、公式のツイッターアカウントで「以下は、派遣法違反の可能性があります」として、「無期雇用の転換後、1カ月派遣先がなければ、辞めてもらうと言われた」というケースを例示した。

     同省の担当者は「無期雇用にするだけでは、雇用安定措置義務(※)を果たしたことにはならない。新たな派遣先を紹介する必要がある。この就業規則通りに辞めさせると、法律違反になる。違法があれば当然指導の対象となる」と明言する。

     親会社のパソナグループの広報担当者は連合通信の取材に対し、「法律の専門家の意見を踏まえて定めた。退職した無期雇用派遣労働者はいないが、誤解を与える恐れがあるとのご意見を踏まえ、(グループ内で)条文の見直しの手続きを進めている」と説明した。

     関根秀一郎書記長は他の大手派遣会社や常用型派遣の会社にも同様の内容の就業規則が広がっていると指摘する。

     ※有期雇用派遣労働者の派遣終了時に、派遣元は(1)派遣先への直接雇用依頼(2)派遣元での内勤社員での無期雇用(3)新たな派遣先の紹介――などを行わなければならない。

     

    ●露骨な無期転換逃れ

     

     15年法改正では、有期雇用の派遣労働者を送り込む場合、一律3年の受け入れ上限規制を受ける。無期雇用にすれば、この規制を受けない。無期雇用に誘導する仕組みと説明されていたが、実際にはそう動いていない。

     派遣労働ネットワークが9月初めに行った「派遣トラブルホットライン」には2日間で145人から相談が寄せられ、うち4割が雇い止めに関するものだった。

     その最大の特徴は、長期間働き続けてきた人が切られていること。派遣期間制限がなかった旧専門26業務の人々だとみられる。

     派遣ユニオンが交渉中の案件で、40代女性は勤続16年の派遣先で働き続けられるよう無期雇用にしてほしいと訴えている。しかし、派遣会社は同じ業種の派遣先の紹介を約束するものの、無期雇用には頑として応じようとしないという。

     「次の派遣先を紹介されない」という相談もある。派遣期間3年終了直後に次の派遣先を紹介すると、勤続年数はすぐに5年になり、無期転換ルールが発動することになる。無期転換義務を避け、あわよくば勤続年数換算をリセットするクーリング期間(6カ月間)を置こうとしているのではないか、とみる。

     

    ●派遣ビジネスの根幹

     

     人手不足でもあり、無期雇用への転換が増えるのではないか――。そうした見方について、関根書記長は「派遣会社にとっては、雇用を切れないリスクの方がはるかに大きい。仕事がある時にだけ雇用するこれまでのやり方を変えることは徹底して避ける」と指摘する。パソナグループで起きた就業規則の問題も無期雇用回避の意識の表れだ。

     3月に発表された派遣事業報告書では、16年度の派遣労働者数は177万人で前年から47万人増加した。うち無期雇用の増加は13万人。無期雇用化が進んだといえるほどではない。派遣先への直接雇用依頼を行った派遣元の割合も11%にとどまる。

     「正社員化を促進する」と述べていた政府の説明はしっかり検証されなければならない。