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    「均衡」は格差肯定の危険性も/神奈川労連の討論集会/沼田雅之法政大学教授が講演

     法政大学の沼田雅之教授は11月23日、神奈川労連が開いた争議権利討論集会で講演し、正規と非正規の格差を是正し、公正な処遇ルールを確立することが急務と強調した。一方、政府の進める同一労働同一賃金や労働契約法に共通する「均衡」処遇の考え方は、格差を温存しかねないと警鐘を鳴らした。

     

    ●「均衡」と労契法

     

     有期契約労働者の保護と雇用安定を趣旨とする労働契約法。同法を用いて格差是正を求める裁判が各地で起きている。労契法第3条2項で労働契約は均衡を考慮するよう定めており、沼田教授は「均衡とは、バランスを考慮する概念であり、一定の処遇格差を是認する日本独特の考え方。正規、非正規の労働条件の違いをある程度肯定している」と述べ、注意を促した。

     その上で「欧州には均衡の概念はなく、均等待遇が原則。同一の職務であれば、同一の賃金、労働条件であるという同一労働同一賃金の考え方だ。人権保障のための差別禁止と、労働者の処遇改善による格差是正の、二つの側面を持つ」と説明し、均衡と均等の違いを示した。

     

    ●使用者の説明義務も

     

     働き方改革関連法により20年4月に施行されるパート・有期労働法(現パートタイム労働法)にも言及。労契法20条は削除され、同法8条に組み込まれる。同法では、不合理な待遇差の禁止を「均衡待遇規定」、差別的取り扱いの禁止を「均等待遇規定」と使い分け、不合理の内容をガイドラインで示すことになっている。均衡は残るものの、ガイドラインによる行政指導など、規制は強化されるという。

     14条2項では、短時間・有期雇用労働者と通常の労働者の労働条件の相違について説明を求められた場合、使用者は応じなければならないと義務付けている。沼田教授は「賃金になぜ違いがあるのか、会社に説明を求めることが重要。労働者個人が問うのは難しい。組合は法律ができた以上、団交で突破口を開き、職場を変えてほしい」と呼び掛けた。

     

    〈写真〉講演する沼田教授