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    インタビュー/非正規労働者の格差解消を/均衡の法律と指針を生かす/宮里邦雄弁護士

     働き方改革関連法による同一労働同一賃金ガイドラインなど、非正規労働者の格差を是正する整備が進められている。格差是正に必要なポイントは何か。日本労働弁護団元会長の宮里邦雄弁護士に話を聞いた。

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     ――非正規労働者の処遇改善では「均衡」をよく使います。どのような考え方なのでしょうか。

     有期雇用労働者と無期契約労働者の間の不合理な格差を禁止する労働契約法20条は「均衡」の考え方に基づいています。均等が全く同一の労働に同じ処遇を求めて差別的取り扱いを禁止するのに対し、均衡は同一でなくても、職務内容などの違いを考慮し、相対的にバランスを図るというもの。例えば、職務内容の違いは1割程度なのに、労働条件には9割もの差が付いた、というような場合には均衡を欠くと言えます。

     均等に比べると、均衡は労働条件の有無や度合いの「射程域」が広く、緩やかに合理性を判断するのが特徴です。職務内容に違いがあれば、それに応じた差が容認されるのはやむを得ませんが、あくまでも制約が伴うものであり、決して格差が許されるということではありません。同一労働でなくても、均衡を欠く処遇であれば、20条に違反するのです。

     均衡が保たれていると言えるか否かの根拠は、20条に記された(1)業務内容(2)責任の程度(3)配置変更の有無(4)その他の事情――を考慮して総合的に判断します。有期契約は労働時間や勤務日数などが正規とは異なる働き方が多く、誰と比較するかが重要。比較すべき対象を特定した上で、バランスを欠く処遇かどうかを判断することになります。

     ――労契法20条で初の最高裁判決が出ました。

     ハマキョウレックス事件で最高裁はまず、同じドライバー職の正社員と有期雇用労働者には、職務内容に違いはないものの、「広域移動の可能性」と「人材登用の可能性」に違いがあると指摘しました。しかし、安全輸送などを目的とした無事故手当などの不支給は、職務の内容によって差が生ずるものではないとし、不合理と判断したのです。

     一方、住宅手当については、就業場所の変更が予定されていない有期雇用に比べ、転勤などの配置転換で転居の可能性がある正社員は住宅にかかる費用が多額になり得るとし、有期雇用労働者への不支給は不合理と判断しませんでした。

     有期雇用でも住宅は必要だと私は思いますが、この点も住宅手当の趣旨・目的によって判断が異なる可能性があります。最高裁は、同じドライバー職だと確認した上で、各手当について、その趣旨や目的に沿って個別に判断しました。この判決の最も重要なポイントです。同じ名目の手当でも企業によって意味や趣旨が異なれば、判断も異なってくるということです。なぜその手当が設けられたのか、交渉経緯、運用実態が問われるため、賃金交渉で手当の趣旨を十分に議論することが求められます。

     

    ●賞与不支給はダメ

     

     ――厚生労働省は11月27日、正規と非正規の不合理な格差の是正を目的とした「同一労働同一賃金」のガイドライン案を示しました。同一労働同一賃金という名前ですが、均等と均衡の2類型を規定する内容です。

     ガイドラインは、福利厚生や通勤手当などの不支給は職務内容の相違にかかわらず、差別的取り扱いを禁じる均等処遇の対象とし、基本給や賞与についても均衡処遇を求めています。基本給では職業経験や能力、業績や成果、勤続年数などの差が均衡を考える際の目安として具体的に列挙されました。

     ――均衡では格差が残るのでは?

     ガイドラインでは、職務内容などの違いに応じた処遇になっているかの検証が一層、求められることになります。正社員が専門職、非正規が軽作業のような単純労働の場合、ある程度の労働条件の相違は許されますが、職務内容の相違に応じた一定以上のバランスを欠けば、違反になります。単純労働だから非正規には賞与を一切払わないというのは論理的ではありません。正規と非正規の二分論だけで格差を容認することはもはや通用しません。

     ――さらに、働き方改革関連法では、パート・有期労働法が20年4月に施行(現パートタイム労働法、中小企業は1年猶予)、労契法20条は削除されて、同法8条に組み込まれます。

     8条では短時間・有期雇用労働者の基本給などの労働条件について、通常の労働者(フルタイマー、無期雇用)との不合理な相違を禁じています。9条では職務内容が同一の場合の差別的取り扱いを禁止しています。さらに14条2項では、労働条件の相違の説明を求められた場合、使用者に説明を義務付けました。短時間・有期雇用労働者の均等均衡待遇を定めたこの法律は、労働条件の相違の理由について説明するよう、同一労働同一賃金のガイドラインと併せて差別是正を進める上で、有力な手掛かりになるものだと思います。

     

    ●問われる労組の役割

     

     ――労働組合にはどのような取り組みが望まれるのでしょうか。

     ガイドラインは法律ではありませんし、労契法やパート・有期労働法には、労基法のような刑罰はありません。だからこそ、法の実効性の担保と法の具現化は、労働者、労働組合の運動次第になります。

     労働組合はぜひ、この法律やガイドラインを「武器」として、非正規労働者の処遇改善の交渉に挑んでください。非正規の賃金を上げるなら正規を下げるという企業の話も耳にしますが、このような対応は非正規の格差を是正するという立法趣旨に照らせば、違法であり無効です。法律の形骸化、悪用、反対解釈をする使用者は必ず現れます。このような使用者に臆することなく、法の趣旨を掲げて闘ってほしいですね。

     均衡処遇は射程域が広いだけに、団体交渉で決定する幅も組合によって異なるでしょう。バランスの取れた同一の処遇にどこまで迫れるか。あるいはどの程度の格差を止むを得ないものとして受け入れるのか。その成果は他の労働組合や労働者に波及します。非正規と正規の格差を解消するために、この法律とガイドラインを最大限に活用してください。