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    政府に都合悪い設問を削除?/裁量労働制実態調査の検討会

     厚生労働省の裁量労働制実態調査を適正に行う方法について議論する同省の専門家検討会が大詰めを迎えている。12月7日に開かれた第3回の会合では、11月2日の第2回に続き、裁量労働制への批判を招きそうな設問を削除しようとする意見が出された。

     

    ●自由記入欄を軽視

     

     11月2日の検討会では東京大学大学院経済学研究科の川口大司教授が「自由回答は、極端な意見が出てきたときに全体の印象を引っ張ってしまうこともある」として、調査に自由記述の回答を入れることに疑問を呈した。座長の早稲田大学政治経済学術院の西郷浩教授も同調し、「集計がとても大変」と、自由記述欄を設けることに消極的な姿勢を見せた。 

     労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査(2014年)で裁量労働制で働く約8割の労働者が「満足」「やや満足」と答えながらも、自由記述欄では多くが強い不満を述べていたことが4月に分かり、関係者に衝撃を与えた。

     12月7日の検討会では欠席した川口教授らの文書提案が代読された。労働者への調査票から①自分のみなし労働時間②労働時間把握の方法③裁量労働制が与える負担――を問う設問項目の削除を求める内容だった。

     この主張に対して早稲田大学教育・総合科学学術院の黒田祥子教授は「メンタルヘルスの状況が把握できなくなる」として、③の削除に反対。早稲田大学商学学術院の小倉一哉教授は「裁量労働制(が必要かどうか)をゼロベースで考えるなら(回答の選択肢に)『廃止したほうがいい』という項目を入れるべきだ」と提案した。

     厚労省の担当者は「参議院の付帯決議はあくまで現行制度の改善を検討会で行うという趣旨」と回答、廃止を含めた見直しは今回の調査の目的ではないと述べ、小倉教授の提案に否定的な見解を示した。

     

    〈解説〉裁量制拡大ありき?

     

     この日、裁量労働制に関する厚労省のデータ不正問題を指摘してきた法政大学の上西充子教授も検討会を傍聴していた。上西教授は「現在の裁量労働制について批判的な結果を導きそうなポイントを最初から除外しようとしている」と指摘。「形だけは再調査の形を整えているが、肝心な質問を調査に入れるのを避けようとしている」と批判した。

     三菱電機は、裁量労働制を適用された複数の労働者の労災認定(うち2人は自死)をきっかけに社内で裁量労働制の適用をやめている。厚労省は「調査の目的は現行制度の適正化」と言うが、深刻な失敗例が次々に明らかになっており、廃止の要望を含め、制度についての率直な意見を当事者からくみ上げるのは必要なことではないか。

     7日の検討会では「調査負担の削減のため質問項目を少なくしたい」と厚労省の担当者が自ら発言する場面があった。調査票の回収率を上げるため質問項目を減らしたいというのが厚労省の主張だが、裁量労働制で働く労働者の実態を十分に把握できない調査では本末転倒だ。しかも、厚労省は裁量労働制実態調査で重大なデータ不正問題を引き起こした張本人でもある。

     検討会は年内に意見をまとめ来年4月から検討会の議論に基づいた実態調査が行われる予定。上西教授は「これでは最初から都合の悪いことは聞かない、という調査になる。裁量労働制の拡大ありきの調査方法を見直すべきだ」と批判している。