「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    〈働く・地方の現場から〉働くルールを知ってほしい/ジャーナリスト 東海林智

     「2008年末に派遣村が設けられたことを初めて知った。人がモノのように扱われる実態に触れた思いだ」

     12月13日、新潟県立大学の社会政策の授業で「知っておきたい働くルール」をテーマに講義をした。その冒頭で「労働は商品ではない」とうたうフィラデルフィア宣言に触れ、働く者が「モノ」のように扱われた実例として、08年末の派遣切りとそれにあらがった派遣村について説明した。前述の言葉は、学生が記した講義の感想だ。

     

    ●モノ扱いのバイト横行

     

     感想文を書いたのは1年生の女子学生。派遣村が開かれた当時は8歳だから、知らなくても無理はない。10年の月日は「歴史」にしてしまうには十分な時間の流れなのだと実感させられた。ただし、10年が問題を解決してくれたわけではない。労働をモノとして扱うひどい状況はなんら〃改善〃されてはいない。

     受講した約60人の感想文を読むと「労働は商品ではない」という部分に多くの共感が寄せられていた。ある学生は「朝5時から午後3時まで、休憩もなく10時間働かされている」とバイト体験を記した。別の学生は「授業が始まる時間になっても帰らせてもらえない」「タイムカードは30分単位にセットされていて、30分未満はサービス労働」など、次々と過酷な実態を記した。「今年就職した友人はノルマに追われて長時間労働を強制されている。先日会った時は別人のような顔つきになっていた」とつづった者もいた。

     ブラック企業が社会問題化する中、自らのバイト体験や就職した先輩の話を見聞し、人間性が疎外される労働の現場におびえている。それだけに「労働は商品ではない」の宣言が共感を集めたようだ。

     

    ●良くない労組イメージ

     

     講義では、人として尊重されて働くことを担保するために労働法があること、労働三権の意義や労働組合に求められる役割についても語った。労組のイメージを聞くと「怖い」「実際に何もできない」「(会社に)仕返しされる」と、予想はしていたが、さんざんな答えが返ってきた。時間の制約はあったが、労組があって初めて労働者は不条理に声を上げることができることや、自らの労働条件に関与できることなどを説いて講義を終えた。

     女子学生からは「残業が100時間を超え、家事もある。そんな状況で組合に加入して闘う力は残っていないと思う」との感想が寄せられた。切実な意見だ。新聞労連の委員長を担っている時、同じセリフを女性組合員に言われたことがある。過重労働を是正し、組合活動に参加する条件を作れなかったことにじくじたる思いはある。同時に「育児休業やその後の職場復帰は先輩の労働者が組合に結集して、必死に闘い取ってきたものなんだよ」と伝えてあげたいと思った。

     それは、JAL争議団の仲間から勧められた小説「時をつなぐ航跡」(井上文夫著・新日本出版)を読んでいたからだ。小説は、航空機内での過酷な勤務で体を壊したキャビンアテンダントの労災をめぐる裁判を軸に、組合間で昇進差別を受けながらも、安全運行への思いを持ち、女性が仕事を続けられるよう闘う姿や、仕事と組合への誇りが描かれている。JALのユニオンに限らず、多くの労組が「人間らしく働く」ために闘ってきた。

     

    ●組合があってこそ

     

     若者たちがワークルールを学ぶことの重要性は言を待たない。同時に、労働組合の役割を知ってもらうことも重要だ。労働法がまっとうに機能するためには、労働組合の力も欠かせないからだ。