「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    労働時評/「組合はもっと怒れ」/18年労働運動の回顧と展望

     2018年の労働運動はかつてない「異常」事態の展開となった。春闘では実質賃金のマイナスが続き、相場けん引役のトヨタが初めてベアを非公開とした。働き方改革では労働法制の破壊が目立ち、学識者からは「組合はもっと怒りを」の声も上がった。来年は参院選を含め世直しの年としたい。

     

    ●危機感と怒りを持て!

     

     学識者から、情勢を憂う声や労働運動への注文が相次ぐ。労働運動の課題と方向性を考える、法政大学のシンポ(7月22日)で、安倍政権と対峙している山口二郎法政大学教授は「組合はもっと危機感と怒りを持った運動を」と提起した。会場からはこの30年間、大規模な運動が見えなくなったとの意見も出された。

     篠田徹早稲田大学教授は9月11日、連合フォーラムの臨時総会で「1989年の連合結成で(世の中が)大きく変わると労働政治学者は注目したが、そうはならず、今では労働運動の研究者は少なくなった」と指摘。職場、地域からの運動再構築を提言した。

     賃金問題では、物価上昇を下回る日本の実質賃金低下に対し、吉川洋東京大学名誉教授は10月25日の連合総研のシンポジウムで「組合はもっと怒るべき」とハッパを掛けた。

     

    ●共闘壊すトヨタ労使

     

     春闘では実質賃金マイナスが続いている。17年度はマイナス0・2%となり、18春闘後も4月から9月まで0~マイナス0・9%で推移している。賃金の「上げ幅不足」であり、賃金水準以前にベアの引き上げが必要だ。

     春闘動向ではけん引役のトヨタ労使が初めてベアを非公開とし、手当込みなどの昇給で合意した。春闘63年、金属労協春闘42年で初めての異例回答だ。

     上部団体の自動車総連は19春闘に向け産別の統一ベア要求を見送った。平均賃上げ、個別賃金とも各単組に委ねるという、他産別には見られない展開であり、背景にはトヨタのベア回答非公開との関連も取り沙汰されている。連合もベア(上げ幅)から個別賃金による水準重視へ闘争転換の方向である。

     トヨタ式回答が広がると、隠しベアや分散回答、共闘軽視による春闘の弱体化を招く。社会的影響力の低下ともなろう。個別労使や産別を超えた問題として労働運動の対応が問われている。

     

    ●労組不要論への懸念

     

     19年に結成30年を迎える連合で、産別の脱退や分裂、組合員の大量脱退などの問題が相次ぎ、神津里季生会長が「反省と点検を」と警鐘を鳴らしている。

     金融関係の全信労連(約4800人)が7月、連合を脱退した。理由は財政事情とされている。

     化学・医薬品関係では10月10日、12労組が薬粧連合(約2万7千人)を結成した。リストラ対応や賃金闘争で、産別闘争より企業別組合の「やりやすさ」もほのめかしている。

     薬粧連合結成に当たって9労組が脱退申請したUAゼンセンは翌日の会見で「大変残念であり、遺憾」との見解を表明。ゼンセンには医薬関係48組合、約5万人の関連労組が残り、「分断を助長させる動きで、医薬品を代表する機能は果たせない」とけん制した。

     春闘期には、JR総連内で最大組織の東労組の組合員が、ストを含む戦術や「経営陣の判断」などを要因に大量脱退した。JR総連は再結集を狙いつつ、連合には会費減免として登録人員を約4・8万人から約2・3万人に半減して申請し承認された。一方、JR連合(8万2千人)は組織化の展開と、「民主化闘争の完遂」「JR労働界の一元化」を確認した。

     脱退者の一定数は「社員会」などに入っているが、労働組合化する動きは見られず、「労組不要論」がJR東日本にとどまらず、JR全体に波及する懸念が指摘されている。

     

    ●白紙委任の強権政治

     

     労働法制でも労基法施行71年目の大改悪が強行される異常事態。高度プロフェッショナル制度(残業代ゼロ制度)は、最悪のケースで8週間内の前後に各4日休ませ、48日・24時間連続、休憩なし、手当なしで時間外、深夜、休日も働かせることが法的に容認される。戦後初の労働時間規制の破壊となる。

     外国人労働者の受け入れ拡大でも安倍政権が暴走した。法案の中身はなく、業種、上限人数などは政府に白紙委任という強権政治。「現代版奴隷制」といわれる技能実習制度の是正と、外国人労働者との共生社会づくりは今後の課題となる。

     

    ●夏の参院選が天王山

     

     19年は参院選が大きな焦点となる。米軍新基地予定地の沖縄・辺野古への土砂違法投入など安倍暴走政治の阻止が大きな課題だ。

     労組、市民、野党は「安倍政権NO!」を掲げ、今年5月3日の6万人集会など波状的な抗議行動を展開。9条改憲阻止署名も1850万人以上に上る。

     参院選勝利へ立憲民主、国民民主、共産、自由、社民、無所属の5党1会派は11月29日、市民連合の公開シンポで、全国に32ある1人区での統一候補擁立と共通政策づくりを確認した。

     一方、自民党は、改憲阻止の3千万署名が進められるなか、臨時国会で9条など4項目の改憲案提出を断念した。共闘の重要な成果だ。戦後最悪の安倍暴政の阻止へ、共闘と世直しが求められている。(ジャーナリスト・鹿田勝一)