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    〈グローバル化の陰で〉組合つぶしの暴力に抗して/フィリピンのバナナ労働者/日系「スミフル」の農園・工場で

     バナナ事業社「スミフル(旧住商フルーツ)」は日本でのバナナ輸入販売の約3分の1のシェアを持つ。しかし、その生産地では労働者らが悲痛な声を上げていた。

     

    ●団交求める判決を無視

     

     スミフルがプランテーションを展開しているフィリピン南部、ミンダナオ島のコンポステラ・バレー。現在「スミフル」ブランドのバナナを生産・梱包(こんぽう)している工場で働く労働者のほとんどは、何年もまともな労働契約もない状態で働き続けているのだ。

     労働者らは組合を組織し、10年以上抗議の声を上げ続けてきた。2017年6月には、フィリピン最高裁がついに労働者とスミフルの間に労使関係が存在することを認め、同社に労働組合NAMASUFAとの団体交渉に応じるよう言い渡した。

     ところが、1年以上たっても正規雇用は実現せず、団体交渉要求も無視され続けてきた。そのため、組合側はストライキに踏み切ることを決定。昨年9月4日には現地の労働雇用省事務所にスト宣言を提出し、10月1日にバナナ梱包工場労働者ら約900人が一斉にストを決行。バナナ梱包作業はほぼストップした。労働者らは工場前で座り込みをし、スミフル側が応じるまで何日でも抵抗する意志を示していた。

     

    ●組合員へ銃撃・放火も

     

     しかし、フィリピン国軍と警察、そして正体不明の男らが10月11日に座り込み現場を襲撃した。17人以上がけがを負い、ピケは解散させられた。さらに10月31日午後6時ごろ、ストに参加していた労働者ダニー・ボーイ・バウティスタ氏が正体不明の男らから4発の銃弾を受け、即死する事件が発生。その2週間後には同じく組合員2人が銃撃された。11月29日と12月15日には組合長ポール・ジョン・ディゾン氏の住宅と組合事務所が放火された。

     現地はこうした銃撃・放火事件が頻発するような地域ではなく、組合を狙った犯罪であることは誰の目にも明らかである。

     

    ●声上げるのは命がけ

     

     それでも労働者らは暴力に屈することなく、いままでの条件のままで職場に復帰することを、今日まで拒否し続けている。労働者900人は事実上の懲戒解雇状態のままだ。

     彼ら彼女らが求めることは正規労働者として安定雇用され、受けるべき社会保障、年金、有給休暇など当たり前の待遇を受け取ることである。過剰な要求ではなく、フィリピンの労働法、そして最高裁の判決にスミフルが従うことを希望しているだけである。

     しかし、その声を上げただけで、労働者らは命を狙われているのだ。まさに命を懸けて声を上げる労働者に日本の私たちは応える責任があるだろう。(アジア太平洋資料センター事務局長 田中滋)

     

    〈写真〉昨年12月15日に放火された組合事務所。労働者らの雇用記録に関する資料もほとんど燃やされてしまった

    〈写真〉最高裁判決の無視とスト弾圧を受けてフィリピン大統領官邸前で座り込みを行なう労働者たち。スト中の収入はなく、すべてを失う覚悟で政治と司法に問題を訴えている