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    インタビュー/業務量削減と教員増を/未来のための公教育を求めて/過労死遺族の工藤祥子さん

     時間外労働月80時間の「過労死ライン」を超えて働く中学校教員が、6割近くに達しているという。文部科学省が近くまとめる教員の長時間労働是正の指針案(中央教育審議会答申)では、時間外上限を月45時間に設定したが、労働基準法のような罰則や拘束力はない。今回の答申で長時間労働は解消できるのか。中学校教員の夫、義男さん(享年40)を過労で亡くした工藤祥子さん(神奈川過労死等を考える家族の会代表)に話を聞いた。

     ――義男さんはどのような働き方でしたか。

     教科は保健体育、サッカー部の顧問でした。運動が苦手でもがんばっている子を評価したい、と教材研究にも熱心で、教えるのが大好きな教員でした。

     夫の死を早めたのは「生徒指導専任」の職務、中でも地域との連携業務だったのではと思います。授業、校務、部活の三つだけなら、過労で命を落とさなかったはずです。

     生徒指導専任は、横浜市独自の職務で、校長ら管理職と教員の橋渡し役、若手教員の育成、不登校や発達障害のケア、地域と学校を結ぶ役割までカバーします。言い換えれば、学校のコーディネーターの役割を担うので、業務量も多い。

     夫は着任したばかりの学校で、学校・家庭・地域連携事業(学家地連)の総会準備に追われる中、他学年の修学旅行の引率を命じられました。弱音を吐く人ではなかったのですが、この時は行きたくないと同僚に相談していました。引率先では午前3時まで見回り、2時間後には起床という、ほぼ不眠不休の状態。修学旅行から戻って10日後、くも膜下出血で亡くなりました。

     ――地域との連携業務は負担が大きいのでしょうか。

     夫の場合、十分な引き継ぎも土地勘もないまま、着任から2、3日目には町内会長へのあいさつ回りを始め、百数十件の名簿作りを一人でこなしました。学校が荒れていたこともあり、地域からの要求のレベルも高く、役所で名簿を確認したり、細かいことにも神経を使ったりしていました。地域との関わりも大切ですが、これが学校、教員本来の業務なのかと疑問に思います。

     ――学校における働き方改革特別部会の議論では、一般の労働者と異なる教員の特殊性を強調する発言が多くありました。

     特殊性ではなく、専門性を見るべきでしょう。教員は児童生徒を教え、育む専門職。地域のクレームや部活の専門家ではありません。特殊という言葉を使って、何でも担わされているように見えます。

     (時間外の業務の多くを残業とみなさず、給与の4%分の調整給を払う)給特法も、教員の働き方が特殊だという理由で定められました。特殊という理論が崩れれば、給特法は成り立たず、年間9千億円と試算される残業代を払わなければならなくなります。この特殊性が堅持される限り、長時間過重労働の改善は小手先の方策にとどまるのではないでしょうか。業務量を減らして教員を増やすなど、予算を伴う措置が必要です。

     ―― 一番の対策は?

     公教育に対し、社会全体で共通の理解を持って変えていくこと。保育園の待機児童問題では多くの保護者が訴えました。誰もが入学できる義務教育の小学校になると、お任せになってしまい、意識が希薄になりがちです。

     公教育は市民生活の根幹を成すもの。未来の社会につながっています。その公教育が崩れれば、生活も崩れてしまう。公教育に関心を持ってほしいですね。

     ――多忙ゆえに組合活動を負担に感じる教員も多いと聞きます。

     教員の働き方は限界に達しています。声を上げるのは大変ですが、声を上げられない人たちにこそ負担が押し付けられます。

     大学院のゼミで話した時に、「先生に人権はないのか」と問われました。民間では給特法のような働き方は通用しません。根深い問題ですが、組合は積極的に向き合ってほしいですね。

     夫の公務災害認定は申請から4年半かかりました。一度は不認定を受けましたが、不服申し立てで認められたのです。夫の働き方が公務災害として認められないのはおかしいと思った先生方が、陳述や証拠集めに協力して下さった。その先生方が今、つらい状況に置かれている。夫の死を無駄にはしたくない、先生方に二度と夫のような不幸がないよう、健康に働ける職場にしたいという思いが私の活動の力になっています。

     

    〈写真〉給特法改正の署名運動に取り組み、記者会見にも参加した(昨年12月4日、厚労省で)