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    労働時評/「産別・単組自決」でいいのか/春闘統一闘争の行方を危惧

     2019春闘で連合加盟産別は要求と闘い方をめぐり、産別・単組自決か統一闘争・共闘重視かで対応の違いがみられる。連合の春闘再構築の行方にも関わる重要課題だ。春闘はまもなくヤマ場を迎える。動向と課題に焦点を当てた。

     

    ●ベア非公開へトヨタ先行

     

     産別・単組自決で論議を呼んでいるのがトヨタと自動車総連である。

     とりわけ春闘回答のけん引役とされるトヨタの先行ぶりが目立つ。トヨタは17春闘からベアのほかに、子育て手当を「ワンショット・ベア」として回答。18春闘では格差是正の名のもとに労使ともベアを非公開とし、資格援助手当など多様な賃上げで結着した。

     今春闘では「ベア重視から諸手当、絶対額重視」に転換し、定昇もベアも額を示さず、正規と非正規を区別せず、諸手当を含めた1万2千円を要求した。

     自動車総連も統一ベアを見送り、「単組自決」に転換。マツダもベア要求を非公開とし、日産など10労組がベア3千円を要求した。個別賃金要求も各組合の中堅技能職で38・3万円~28・9万円と分散し、5労組は労使事情で非公開とするなど足並みは乱れている。

     東京電力労組は年収3%増、NTT労組は非正規処遇改善で年収2%増と多様化している。

     連合は春闘再構築として「上げ幅」から水準重視への転換を提唱。個別賃金は職種、年齢、規模、地域で31・1万~19・9万円と13種類に分散している。統一的な基準も必要だろう。

     

    ●大勢は統一闘争重視

     

     多くの産別は連合のベア2%基準と個別賃金を要求し、統一闘争を重視する。

     私鉄総連は物価上昇を踏まえ昨年より1600円高いベア7600円を要求。田野辺耕一委員長は、ベア要求を盛り込まない組織や、ベア非公開、年収ベースに転換する連合加盟産別の動きに触れ「社会全体で賃上げを求める流れにブレーキをかけかねない」と危惧を表明した。

     電機連合は個別賃金でベア3千円以上を要求。スト回避基準を背景に、大手の回答水準を中小など8割以上の組合に波及させることを重視。野中孝泰委員長は「労使の社会的役割春闘として統一闘争で春闘相場の形成・波及をめざす」と語る。

     UAゼンセンは産別統一闘争で会長が妥結権を掌握する。方針は「連合が賃上げ要求を設定し、実質賃金確保は社会的役割」とし、ベア2%と個別賃金を要求。松浦昭彦会長は「必ず昨年以上の賃上げを確保する」と強調した。

     基幹労連の組合はベア3500円を要求。神田健一委員長は「産別全体で結果にこだわる」と横並び対応を求める。

     JAMは、ベア6千円以上と、個別賃金を重視する。安河内賢弘会長は「回答にこだわる闘争」を提起した。

     フード連合のベア要求は6千円。松谷和重会長は「春闘は一産別だけの問題ではなく、日本の経済社会に関わる重要な課題。連合がベア要求を設定するのは当然だ。春闘を改革するなら時間をかけて論議すべき」と苦言を呈す。

     自治労は個別賃金で要求。川本淳委員長は「連合は統一闘争を変える必要はない」と語る。

     連合は産別の声を聞き、統一闘争を強め、「産別自決」に対しては連合のベア要求基準を順守させることが問われている。初代連合会長の山岸章氏は「連合のためになる産別自決を」と、くぎを刺している。

     

    ●連合結成以来の火種

     

     「産別自決」か、「統一闘争」重視か、は連合結成以来くすぶり続けている問題である。「賃金・労働条件は産別責任、連合の調整」とし、「政策制度は連合責任、産別参加」とする役割分業の是非だ。

     連合結成論議で、春闘に影響を与えていた金属労協加盟の鉄鋼労連(現・基幹労連)、自動車総連などが、ナショナルセンターを軸とする春闘に対し、〃産別責任春闘〃を提起し方針化されたのである。

     しかし春闘は、欧米のような産別労使交渉による賃上げ波及システムとは異なり、個別企業ごとに賃金水準と交渉権が分断されている企業別組合の弱点克服のための独特の闘争方式だ。生命線は産別統一闘争と共闘にある。

     産別統一闘争では、企業の枠を越え、同じ産業に働く労働者の共通した要求を掲げ、統一交渉と統一闘争を展開。ナショナルセンターの調整・指導の下に先行高額水準を社会的春闘相場として、中小、最賃、公務員の人勧、未組織、非正規労働者に波及させる賃金決定システムである。

     曲折を経ながらも連合は結成以来、春闘で統一的な賃金要求を設定。産別自決よりも連合春闘の統一性と求心力を重視してきた。

     

    ●狙いは「春闘の変質」

     

     経団連の中西宏明会長は19春闘は転換点だとし「統一交渉は成り立たなくなっている」と表明。「ベアを非公開にするなど、賃金をトータルに捉える労使交渉がトヨタをはじめ企業間に広がっていることは当然」と、各社別春闘を評価している。狙いは定昇・ベア非公開による相場の分散・解体、相場形成・波及構造の破壊など春闘の変質だ。

     連合の神津里季生会長は2月15日の会見で、月例賃金重視を強調し「要求実態はオープンが基本だ。非公開が広がるようなことにはさせない」と答えている。

     大企業の内部留保は440兆円と史上最高。先進国では異例の賃金デフレ克服へ最低でも昨年以上が必要だ。物価上昇分のベア獲得と賃金水準の引き上げは労組の社会的責任であり、統一闘争と共闘の強化が期待される。(ジャーナリスト・鹿田勝一)