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    〈働く・地方の現場から〉/県議選も市民と野党の共闘で/ジャーナリスト 東海林智

     「やっと投票できる候補が出てきてくれたと思ったら、うれしくて……」

     新潟市南区で、市民グループをバックに県議会議員選挙に出馬する予定の磯貝潤子さん(44)の選挙事務所で、同区在住の女性はそう語ると、わずかに目を潤ませた。

     

    ●無投票当選区へ擁立

     

     間もなく闘いの幕が切って落とされる4年に1度の統一地方選挙。新潟県ではこれまで、国政選挙や知事選などで、市民と野党が共闘してきた。野党同士を結び付ける市民グループの取り組みが注目されてきたが、この春の選挙でも新たな動きを見せている。

     市民グループは昨年12月、統一地方選挙に向けて「バランスのとれた県議会を実現する県民の会」を結成した。前回、自民系の議員だけで無投票当選となった選挙区に、候補者を擁立することにした。前回は県内27選挙区中、1人区、2人区の12選挙区で計16人(自民13人、民主2人、無所属1人)が無投票で当選。このうち9選挙区の当選者は自民党系だった。

     自民以外に選択肢がない選挙区、そこに市民がくさびを打ち込もうというのだ。3人区以上の選挙区では、野党候補を推薦する。これまで野党が候補者を出せなかったところに「市民+野党の統一候補」の擁立を目指している。

     市民グループの一員として選挙に関わってきた新潟国際情報大学の佐々木寛教授は「県議会では議員の約7割が与党議員。多様で活発な議論を実現するには与野党の一定程度の力の均衡が不可欠で、次の選挙は不均衡を正す良い機会だ」と狙いを語る。こうした動きが地域にどんな波紋を投げかけているのか、会が候補を立てた新潟市南区の選挙事務所をのぞいた。 

     

    ●誰かが立たねば

     

     出馬表明した磯貝さんは、2011年の東日本大震災で福島県から新潟市西区に母子で避難してきた。原発問題をはじめ多様な市民運動に参加、選挙にも市民の立場で関わってきた。

     ただ、出馬する南区は避難してきた場所ではなく、二重の「落下傘候補」ともいえる。だが、磯貝さんは「選挙にならなければ、自分たちの地域をどうするか、議論も起きない。特定の人だけが利益を受けるような事態が続く。住みよい地域、未来に声を上げるためにも誰かが立たねばならなかった」といきさつを語る。

     3月3日、磯貝さんの事務所では、地元産のみそ、コメ、卵で「おむすびランチの会」が開かれ、農業地域でもある南区の食と農業の未来を語りあった。20人も入ればいっぱいの事務所には地元の高齢者を中心に40人以上の人が集まった。

     

    ●与党議員にも波紋

     

     ゲストの福島瑞穂参院議員が現れると、参加した女性は「国会議員なんて見たことないよ。選挙がないと議員も来ないからね」と話し、福島さんに地域や国の課題を熱心に訴えた。別の女性は「こんな場はなかったからね」と楽しそうにおしゃべりをした。「ランチは500円です。タダだと選挙違反になるから……」とスタッフが呼び掛けると、みな、500円を取り出す。「選挙事務所で出るご飯はただだと思っていたけど、これが普通だね」

     冒頭の女性は「無投票では町に活気が出ない。私たちの思いを託せる候補がいることは幸せだ」と話した。

     有権者に声を上げる機会と投票の選択肢を提供する……。会の方針はそんな運動のように思える。そして、それは多数派であることを当然のこととしてきた与党議員たちにも小さくない波紋を広げている。選挙結果に注目したい。