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    インタビュー/〈ILO100周年〉(4)/ディーセントワーク、道遠し/郷野晶子労働側理事に聞く

    (4)ILOが提唱するディーセントワーク(DW、働きがいのある人間らしい仕事)は国内外でどれだけ進展してきたと思いますか?

     

     海外を見ると、ヨーロッパについては欧州指令もあり、かなり実現できていると思います。しかし、南アジアやラテンアメリカ諸国などの開発途上国は、グローバル化が進むなかで、DWとはほど遠い状況だといえます。

     例えば、2013年に起きたバングラデシュのラナプラザ事故。縫製工場の入っている商業ビルが火事で崩落し、千人以上の死者を出しました。

     日本でも、私個人の実感ではDWが定着しているとはいえないでしょう。「十分な収入」については、今の最低賃金での生活は苦しいと思います。相対的貧困率では、2015年の統計で6~7人に1人の割合となっています。これは先進国では米国に次ぐワースト2のレベルです。

     権利状況はどうでしょうか。長時間労働の問題は改善されていません。均等待遇が実現できているかどうかですが、以前よりは向上しているものの、同等な権利保障にはまだ遠い。

     

    ●労組の大きな課題

     

     個人個人を見れば、確かに以前よりはよくなりました。正規雇用の共働き程度の収入があれば、おいしいものが食べられて、子どもをちゃんと育てることができるでしょう。しかし、パート、有期及び派遣労働者の場合、そうではないケースが多い。とてもディーセントな処遇とはいえません。

     こうしたところをどうカバーしていくか、日本の労働組合の大きな課題だと思います。国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」にあるように、誰も取り残してはいけないのです。(つづく)

     

    〈用語解説〉

     ディーセントワーク 「働きがいのある人間らしい仕事のこと」です。1999年の第87回総会でファン・ソマビア事務局長(当時)が提起し、ILO活動の主目標と位置付けました。具体的には(1)十分な収入を得る仕事があり、(2)権利(3)社会保障(4)社会対話が確保されている――状態を指します。「社会対話」とは労使、あるいは政労使の話し合いのことです。ILOはこの考えに基づき、児童労働撲滅や公共雇用創出など、国別に計画を立てて支援を行っています。

     

     ラナ・プラザ事故 2013年4月、バングラデシュの首都ダッカ近郊にある商業ビル「ラナ・プラザ」が火災で崩壊した事故。縫製工場が入っており、千人以上の労働者が死亡しました。その後、同国労使だけでなく、ILOや欧州連合(EU)、米国、カナダなども加わって再発防止を協議し、火災防止・安全協定を締結。縫製工場設備の点検と改善を義務付けました。安全対策は一定進んだものの、同国政府は協定内容を維持することに背を向け始めています。

     

     SDGs 「エスディージーズ」と読みます。持続可能な開発目標のこと。2015年9月、国連サミットの中で決められた、国際社会が目指すべき共通の目標です。貧困撲滅など17の目標と169のターゲット(具体的な目標)を掲げ、2030年までに達成することとしています。