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    「夏休みの振り替えは駄目」/年休強制取得で佐々木亮弁護士/労働条件の不利益変更と指摘

     今年4月1日から年次有給休暇の強制取得制度(5日間)がスタートした。取得率向上が目的だが、土曜日や夏休みなどの特別休暇を年休に振り替えて事を済まそうとする動きもある。労働問題に詳しい佐々木亮弁護士はこうした手口について「労働条件の不利益変更になる」と注意を呼び掛けている。

     

    ●残業単価が減額に

     

     働き方改革関連法の中の改正労働基準法で新たに制度化された。年休の付与日数が10日以上ある労働者が対象で、年5日以上取得させることが使用者に義務付けられた。取得が5日未満の労働者がいた場合、使用者には罰則が科される。

     佐々木弁護士によれば、企業の中には法定休日でない土曜日や祝日、夏休みなど企業独自の休み(特別休暇)を5日分、年休に振り替えて「年休を5日取得したことにする」動きがあり、弁護士や労組に相談が寄せられているという。

     例えば、週休2日制の職場で4月の土曜日4日分と5月の土曜日1日分を「労働日」に変更。その上で年休日として指定するやり方だ。形の上では年休を5日取得したことになる。変更には就業規則の改定が必要だが、こっそりやられたら、労働者が気付かない恐れもある。

     佐々木弁護士は「労働日が増えるのだから、当然その分賃金がアップしなければならない。仮に賃上げしたとしても、『休み』が減るわけで、労働条件の不利益変更になり得る。そもそも、労働日増加によって時間当たり賃金(残業単価)が減額になる点で不利益変更だ」と指摘する。

     

     厚生労働省もこうした手口には注意を促している。施行に際して作成した「解説」では、土曜日を年休に振り替えるのは「年休取得の促進にならず、望ましくない」。夏休みなどの振り替えに関しても「法改正の趣旨に沿わない」という見解だ。

     

    ●病休制度の整備も必要

     

     労働者や労働組合は年休取得問題にどう向き合えばいいのか、佐々木弁護士はこう語っている。

     「年休は長期にまとめて休むというのが、制度の趣旨。本来なら全ての年休の取得を義務化すべきで、5日だけ強制するのは中途半端かもしれない。とはいえ(年休取得が常識とはいえなかった)パート労働者やアルバイト、ブラック企業の従業員らにとってはプラスだろう。まずは取得向上に向けて実例を積み重ねていくことが必要だ。その上で労働者が年休を安心して取れるよう、有給の病気休暇や看護休暇を制度化することが求められる」