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    被害者救済に禁止規定不可欠/角田由紀子弁護士/過失相殺で二次被害に

     セクシャルハラスメント被害に対する日本初の裁判「福岡セクハラ訴訟」の原告側代理人を務めた角田由紀子弁護士が4月16日、政府のハラスメント法案について「これでは被害者は救済されない」と語った。嫌がらせやいじめなどの「ハラスメント」が法律で禁じられない下で、裁判に訴えても二次被害に遭う現状を語った。同日、国会内で開かれた集会での講演。

     

    ●人権侵害の視点が欠落

     

     「男女雇用機会均等法(1985年制定)は、『雇用の差別禁止規定をつくろう』という女性たちの要求とは全然違うものだった。それでも『ないよりはまし。ここから始めよう』と諦めずに取り組んできた。昨年、日弁連のシンポジウムで『人権侵害根絶と差別の禁止が必要』と訴えられたが、今回も政府案ではそのことが全然考えられていない」。角田弁護士はこう述べ、ハラスメントが人権侵害だという問題の本質が社会で共有されていないことを憂えた。

     そのうえで、現行法の限界を次のように語る。「セクハラが禁止されず、定義がない下では、裁判官は『不法行為』という民法上の枠組みで判断する。性差別ということが視野に入らず、判決にセクハラという言葉が一切入らないこともある」。禁止規定がないため裁判官によって判断が左右されるとの指摘だ。

     男女雇用機会均等法は、行政が事業主を指導する法律。最大の制裁である企業名公表はほとんどなく、被害者が救済されるには民事訴訟を提起するしかない。

     「勝訴する率は高いが、被害の状況を見ればほとんど解決になっていない。原告は裁判での『二次被害』で精神的にボロボロにされる。裁判を起こす意義はあるが、裁判しか救済の選択肢がない状況は見直す必要がある」

     

    ●過失相殺で二次被害

     

     なぜ二次被害が起きるのか。加害側は被害者の人格や仕事ぶりを否定することで、賠償額を少なくしようとするためだと指摘する。交通事故の損害賠償を決める際、双方の落ち度をはかりにかける「過失相殺」と同じである。セクハラ訴訟では賠償額も低くなりがちだという。

     角田弁護士は「民法の不法行為の枠組みでは過失相殺ができる。裁判で加害側は原告のあら探しをし、落ち度を並べ立てる。あまりにひどい準備書面が出てきて、他人の私でさえ心が痛むことがある。セクハラが性差別であり、人間の尊厳をたたきつぶすものという認識が、裁判官にはない。だから私は司法による解決を勧めない。いばらの道が待っているからだ」と語った。

     英国では、独立した行政機関による救済が図られ、欧州ではハラスメント禁止規制が広がっている。内閣府の調査報告書でも詳しく書かれている内容だ。国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)は、セクハラの定義が救済策を細かく示している。

     「政府案には外国の制度を検討した形跡がない。政府が知らないはずはない。もう検討の時期は過ぎた。世界の常識を踏まえ、実効あるハラスメント禁止法をつくらせよう」

     

    〈写真〉角田弁護士