「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    〈委託化進む都立高校図書館業務〉下/考え調べる力の育成に逆行/元都立高校司書 井上 緑

     読書活動を推進する上で生徒の図書委員会活動は極めて重要であり、正規司書はアドバイスや支援を積極的に行う。その結果、日々の貸出・返却、ビブリオバトル(知的書評合戦)、文化祭、百人一首大会などの活動に貢献している。

     

    ●図書委員会活動も縮小

     

     しかし、委託司書は生徒指導をしてはいけない。委託校の中には(1)「混在」を避けるため図書委員会の活動場所を図書館以外に移す(2)活動を縮小する(3)図書委員会自体をなくす――というケースなど、読書推進に逆行する現象が起きている。

     

    ●業者は利益追求優先

     

     生徒たちが学校図書館を利用して読書や学習を深めようとするとき、また教員が図書館を使ってより多面的な授業を展開しようとするとき、蔵書の知識・資料探索・読書の楽しみ方のプロとしての学校司書の存在は重要だ。

     日常的に図書館の活用を教職員と相談したり、学校生活のさまざまな場面で生徒と本との出会いをつくったり、そうした交流を通じて図書館をさらに成長させていく、そのスパイラルが理想だ。

     委託の現場では(1)経費削減の観点から民間委託を推進する行政(2)専門外の図書館にも手を広げ利益を追求する業者(3)面倒なことは避けてうまくやり過ごそうとする学校(4)ルーティンワークで日々を送らざるを得ない委託司書――の4者がすくみ合って、負のスパイラルに陥っているのではないか。

     

    ●正規司書の復活を

     

     生徒たちが知性と教養を備えた人間に成長していく場として学校図書館の役割はとても大きい。昨今、フェイクニュースの横行や公文書の軽視など情報をめぐるモラルの低下が甚だしいが、目の前の事象をうのみにするのではなく、視野を広げ主体的に考える力を養っていってほしい。

     それを支援する人材こそが学校司書だ。私は今、正規司書を配置することの必要性を痛感している。