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    「無給医は究極のサービス残業」/医師ユニオンがシンポ

     全国医師ユニオンは7月13日、大学病院で診療を行っても給与が支払われない「無給医」の問題について緊急シンポジウムを都内で開いた。無給医も参加し、長時間ただ働きの実態を訴えた。文部科学省はこのほど、存在を否定してきた無給医が全国に約2200人いると認めた。

     松丸正弁護士が講演し、過労による自動車運転事故で大学院生医師が亡くなった鳥取大学医学部付属病院事件について報告した。事故前2週間の宿直は6回、7日間は徹夜だったという。「病院は演習の名目で勤務をさせていた。無給医だったことを当時から社会に訴えていればこの問題は今日まで長引かなかったのでは」と悔やんだ。

     無給医は、他の医師と同様に診療のローテーションに組まれ、指揮監督下で業務を行っている実態から、研修医よりも労働者性が強いと指摘した。「病院側は無給で(医師側と)合意しているというが、その理屈は通らない。労働の実態があるのに対価を支払わなければ、使用者責任が問われる。無給医は究極のサービス残業」と語気を強めた。

     文科省による無給医の確認調査は、大学側の判断で認めたものに過ぎないと批判。「実態を反映した調査を厚生労働省が権限を持って行うべき。学位や教授との関係で当事者は声を上げられない」と述べた。

     

    ●教授がキャリアを掌握

     

     シンポで発言した大学院生医師の男性は、大学病院からの固定収入が月3万円程度だ。生活できないと訴えると、担当教授は「すぐお金、お金と気にしすぎる」「わがままだ」と一蹴。生活のため、手当が支給される当直勤務を月14日もこなした。枕元には呼び出し用のPHS。心電図や救急車の音で眠れず、飲酒状態よりも低い集中力で診療すれば、医療安全の面からも危険だと訴えた。

     「医師としてのキャリアは教授に握られている。大学院生はタイムカードをつけなくてよいと言われ、当直も実働時間ではなく、深夜分だけの記録。これでは大学病院の自浄作用がなくなってしまう」。

     背景には、大学病院の常勤枠が少なく、他学部の収入で赤字を補てんしなければならない事情があるという。大学院生を無給で働かせ、お金をかけない労働力が必要なのだとこの男性は指摘した。

     「無給医は社会インフラをだめにする。この問題の解決なくして、医師の働き方改革ならず」と述べ、無給医をなくそうと呼びかけた。

     別の無給医の男性は、後期研修中で、片道2時間半かけて通勤している。自己研さんを目的とするという書面にサインさせられ、給与も交通費も支給されない。

     「(激務と理不尽な働かせ方で)同期は統合失調症を発症し、続けられなくなった。先輩も辞めてしまった。文科省が認めた無給医の数は明らかに少ない。根は深い」と訴えた。

     

    〈用語解説〉無給医

     大学病院で診療を行っているにもかかわらず、給与が支払われない医師のこと。日本では6年制の大学医学部を卒業し、国家試験に合格後、義務付けられた2年間の初期臨床研修(研修医)を経て、医師として働き始めます。さらに研修を行う後期研修医や専攻医、大学院進学も少なくありません。大学病院はこうした大学院生らに診療をさせ、自己研さんや研修を理由に、給与を支払わない慣習を続けてきました。研究補助などの名目で収入があっても月額3万円程度。当直や関連病院で働かなければ生活できず、長時間過重労働を強いられています。