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    インタビュー/〈どうする最低賃金〉(6)/非公開は知る権利の侵害(下)/山口最賃審の前公益委員 松田弘子弁護士

     ――改定審議が非公開にされています

     松田 山口地方最賃審は自由闊達な意見表明を保障するとの理由で審議を非公開にしている。でもそれはおかしな話で、公開することによって発言が拡散し、発言に対する責任を問われるのが嫌ならば、委員の就任を辞退すべきだと思う。労使委員は選出された団体の利益代表者ではない。委員に就任した以上、公開の場であれ非公開であれ、労働者、使用者の全体の代表としての責任ある発言をすべきだ。

     非公開にすることが、最賃の影響をじかに受ける人たちの「知る権利」を著しく侵害している。審議の議事録を入手するために情報開示請求をしなければならない事態は異常だ。

     非公開にしても一言も発しない委員がいる。任期途中に転勤で山口を離れ、その後一度も出席しなかった人もいた。

     それならば、委員に立候補している非連合の労組に席を譲るべきだ。少なくともナショナルセンターの組織規模に応じて委員を配分するのが公正ではないか。

     ――山口県弁護士会が2017年に初めて最賃について声明を出しました

     声明では、最賃の影響を受ける非正規労働者や、生活困窮者の就労支援を行っている人、社会保障の専門家を委員に加えるべきだと訴えた。

     声明を山口労働局に手交した当日、公益委員だけの会合があった。会長声明に対し「社会学者ではだめなのか」など随分慌てていた感じだった。しかし結局、何も結論は出なかった。

     外から意見を言われることがないのでしょう。声明はインパクトがあった。地方議会での意見書採択も効果があると思う。最低賃金審議会や労働局にどんどん意見を言っていくべきだ。

     

    ●審議会の外で会議

     

     ――いつ頃から疑問を?

     15年に意見陳述を認めるかどうかについて議論した時、別の公益委員と私が条文で定められているのだからやるべきだと主張した。それに対し「意見書が出ているので必要ない」と後ろ向きの意見が出た。結局「他県もやっているから」という理由で初めて認められた。横並び意識の強さを感じた。

     特定最賃の審議でも理解に苦しむ運営があった。金額改定については3回で決めるのが、山口ルール。毎年初回は労働側が、第2回は使用者側が主張し、そのあと審議会の外での会合をはさんで第3回で決める。私は「特定最賃の問題を審議会の外で話し合うのはおかしい。審議会内で話し合うべき」と訴えたが、「労使のイニシアチブで決めるから」と押し切られた。

     経営が厳しいので最賃を上げられないと主張する使用者側に対し、エビデンス(根拠)を示すよう求めると、その委員は「裁判ではないので立証責任はない」と述べていた。はなから立証を放棄する発言が認められている。改定審議が機能しているとはいえない。

     絶対に闘わなければならないと思ったのが、電気機械の特定最賃(当時815円)の見直しだった。軽作業を適用除外にし対象範囲を狭くする案件で、私が委員に就任する以前に公益側が「そういうことを労働側が言い出すのはおかしい」と反対し、沙汰止みになった、と聞いていた。

     それが17年に亡霊のように出てきた。しかもまた労働側からである。私は「適用除外業務の見直しにより賃金の切り下げなどの不利益を生じさせる申し出を行うのは、労働者代表委員としての職責を放棄しているとの誹(そし)りを免れない」「適用除外の見直しの必要性、許容性がない」として反対した。

     その時、審議会でも専門部会でもない「公労使意見交換会」なる非公式の会合が開かれた。これは全会一致の議決に至るよう努力するとの運用方針があることから、反対する私を説得するための会議。終了予定時刻も示されず、1人で14人を相手に闘う形となった。ものすごい同調圧力だったが、主張を曲げず、対象範囲を狭めさせなかった。

     ――4月で任期満了で委員を退任されました

     公益委員の任期は1期2年で、本来10年は務めるものと聞いていたが、今年4月、任期7年で満了となった。異論を言う人間が目障りだったのだろう。委員の任期を終え、今後は公正な審議を行うよう訴えていきたい。