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    中止を「悪しき前例にするな」/市民団体が緊急集会/「表現の不自由展」再開求める

     あいちトリエンナーレ2019の「表現の不自由展・その後」が抗議やテロ予告を受けて中止になった問題で市民団体が8月7日、国会内で集会を開き、声明を発表した。ヘイトで文化事業を中止する「悪しき前例」にするのではなく、表現の自由を求める市民の力で展示を再開させたという「よき前例」にしようと訴えた。主催したのは「表現の自由を市民の手に 全国ネットワーク(表現ネット)」などの市民団体。

     世話人代表で憲法学者の志田陽子武蔵野美術大学教授は、河村たかし名古屋市長や菅義偉官房長官の展示に関する発言について、「公権力を預かる立場の人が、表現の内容に踏み込んで発言するのは慎むべき。憲法の一番重要な原則だ」と批判。憲法が検閲を禁止している趣旨や歴史的反省から、こうした風潮を作り出してはならないと述べた。

     その上で、「見識のある責任者に任せたのなら、信頼し、裁量に任せるのが本来の政治的中立だ」と指摘し、政治の側の対応を問題視した。市民の自由な表現が危険にさらされると懸念も示した。

     田島泰彦元上智大学教授は、自民党の憲法改正草案には「公の秩序を尊重する義務」など表現の自由を制限できる内容が含まれていると述べ、偶発的な事件ではないと強調。「展示を全部駄目にすれば、思考停止に陥る。考えて、議論する健全な市民社会のあり方が成り立たない」と危機感を露わにし、展示の再開を求めた。

     

    ●中止に至る経緯解明を

     

     集会には、展示の実行委員会メンバーも参加し、発言した。大村秀章愛知県知事に公開質問状を送付し、中止決定をめぐる議事録や経緯、抗議電話を受けた職員への具体的なケアの内容などについて回答を求めているという。メンバーの小倉利丸富山大学元教授は「公開2日目ぐらいから(メディアによる)会場の写真撮影や、来場者へのインタビューができなくなった。報道の自由の侵害だ。なぜメディアは抗議しないのか」と批判した。

     出品作家の中垣克己さんは「中止決定に作家が関わっていない。極めて暴力的であり、芸術を愚弄(ぐろう)している。展示は(表現について)ディスカッションしたり、考えあったりする場だと伝えていれば、こんな問題は起きなかったはずだ」と悔しさをにじませた。

     

    〈写真〉声明を説明する志田教授(中央、8月7日、国会内)