
関西電力大飯原発3、4号機(福井県)について、2014年に運転差し止めの判決を言い渡した福井地裁の樋口英明裁判長(17年に退官)が11月12日、都内で講演した。判決を振り返り「関電は一般住宅の耐震設計基準よりはるかに低い地震しか想定していなかった。非科学的であり、危険な原発を扱う者として許されないと思った」と語った。
講演は、全労連や全日本民医連などでつくる「原発をなくす全国連絡会」の学習会で行われた。「大飯原発差し止め判決から学ぶ」がテーマ。
●争点はとてもシンプル
樋口さんによれば、裁判の争点は震度6以上の地震が発生するかどうかだった。大雑把な「震度」ではなく、地震の強さを表す単位「ガル」を使用し、「700ガルを超える地震は来ない。超えたとしても1260ガル以下なら対応が可能」という関電の主張が正しいかが争われたという。
「原発に関する難しい科学的知識は不要で、争点はとてもシンプルだと気付いた。求められたのは良識と理性だった」
700ガルを超える地震は来ないという関電の主張については、08年の岩手宮城内陸地震(4022ガル)や11年の東日本大震災(2933ガル)をはじめ、700ガル超えが2000年以降だけで10回あることを紹介。「このレベルの地震は日本では普通に起きているということ。大飯原発のある地域にだけ来ないとは言えない」と指摘した。
●私たちの世代で解決を
住宅メーカー、三井ホームの耐震基準は一律5115ガル、住友林業も3406ガルを想定しているとし「民間住宅を建てる際の耐震基準よりはるかに低い基準で危険な原発を設計することは許されない」と強調した。
地震学の限界にも言及した。実験や観察ができず、データも限られる学問である以上、科学的に地震を予知することは本来的に不可能で、「実際、わが国の地震学会は大規模地震の発生を一度も予知できていない」と述べた。そうした不十分な地震学に依拠するのではなく、現実に起きている地震を直視することこそ必要という主張である。
樋口さんは、重大事故は現実的で切迫した危険だとした上で「それを知った私たちの世代が解決しなければならない問題だ」と呼び掛けた。
〈写真〉樋口英明元裁判長
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