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    〈グローバル化の陰で〉(9)/夢のリチウムイオン電池だが/原材料による環境汚染/問われる日本企業の責任

     日本人がノーベル化学賞を受賞したことで、話題に上っているのがリチウムイオン電池である。電気自動車を実用化したキーテクノロジーであり、再生可能エネルギーへの転換にも不可欠。まさに世界が気候変動対策にまい進する中で最も貢献する技術の一つとして、日本だけでなく世界が注目するのもうなずける。
     しかし、大きな期待と裏腹に深刻な状況に直面しているのがフィリピンだ。大平洋金属、双日などの鉱山事業、そして住友金属鉱山を筆頭に三井物産や双日も関わる精錬事業がリチウムイオン電池の原材料ニッケルを生産している。

    ●六価クロムが原因

     ニッケル正極材は大容量のリチウムイオン電池を生産するのに適しているため、航続距離の長い自動車や再生可能エネルギーの大量供給には他の金属よりも優れている。そのため、2017年には10万トン程度しか電池用ニッケルは使われていなかったものの、30年には電池用ニッケルは年間100万トン以上へと需要が拡大する見込みだ。その急速なニッケル需要の拡大がフィリピンで環境面での深刻な懸念となっている。
     日本企業が関わるニッケル鉱山や精錬事業の現場では、05年から国際環境NGOが環境影響調査を行っている。その結果、発がん性のある有害物質として規制されている六価クロムが、河川から毎年検出されている。立ち退きを強いられた先住民族の移転先の飲み水から、世界保健機関(WHO)の安全基準を上回る濃度で検出されることもあった。日本であれば即座に鉱山・工場操業停止になってもおかしくないレベルの汚染である。

    ●鉱山の拡張計画も

     関わる企業は、汚染防止対策を進めていると説明するが、10年以上も水質は十分に改善されていない。19年10月の調査でも大幅に安全基準を超える六価クロムの値が検出された。
     そんな中、当該鉱山の一つでは拡張計画が持ち上がっている。現在990ヘクタールの採掘許可地を3千ヘクタール以上に拡張するという。10年間周辺環境の水質汚染を把握しながら、解決できていなかった企業群がさらに鉱区を拡大することで何が起きるのか? フィリピンの人びとが懸念するのは当然だ。
     気候変動対策が急がれる中、その重要なテクノロジーを日本の科学者が開発したことは喜ばしい。しかし、その背後には気候変動対策を理由に汚染を押し付けられようとしているフィリピンの人びとがいる。
     日本企業は今、その圧力を最も行使している側にいる。(アジア太平洋資料センター 田中滋事務局長)