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    1年単位の変形労働時間制/改正給特法の問題点/どうなる教員の長時間労働

     公立学校の教員に1年単位の変形労働時間制を自治体の条例で導入可能にする改正給特法が12月4日、成立しました。改正法成立と同時に、教職員組合や現職教員らが導入阻止を訴えています。この間の動きを振り返りながらあらためて問題点をまとめました。

     

    ●公教育を支える「無償労働」

     

     文部科学省の「教員勤務実態調査」(2016年)によると、時間外労働月80時間の「過労死ライン」を越えて働く教員は、中学校で約6割、小学校で約3割に上ります。過労で倒れる人も多く、精神疾患による休職は年間約5千人です。教員の長時間労働の原因として、部活動や授業数の増加など、さまざまな要因が指摘されています。最も問題なのが、今回改正された「給特法」(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法、1971年制定)です。

     給特法は、実習や職員会議、災害時など4項目の超勤に対し、時間外労働8時間相当の「教職調整額」として月額給与の4%を支給。一方、授業準備や部活などは「自主的活動」とみなして、超勤手当を支給しません。長時間労働の温床と批判されています。

     現在の時間外労働に全て超勤手当を支給した場合、約9千億円が必要です。こうした教員の無償労働が公教育を支えているのです。教育実習で実際の働き方を体験した結果、教員を諦める学生も多く、一部の自治体では採用試験の倍率が2倍を割るなど、志望者は減少。長時間労働が公教育の崩壊を招きかねない、危機的な状況です。

     

    ●長時間労働は解消されない

     

     長時間労働の実態を重く受け止めた文科省は2017年、「学校における働き方改革特別部会」を設置。研究者らが約2年半に及ぶ議論を重ねましたが、答申に1年単位の変形労働時間制の導入が盛り込まれました。部会長が唐突に変形労働制を提案した背景として、自民党の教育再生実行本部の第10次提言の存在を指摘する声もあります。

     しかし、導入には大きな問題が二つありました。(1)恒常的に残業が発生している職場には導入できない(厚労省通達)(2)公務員は協約締結権を制約されているため、変形労働制の導入要件である労使協定を締結できない――という点です。

     萩生田光一文科相は国会審議で、教員の働き方改革を「特効薬のない総力戦」と表現。変形労働制の導入が長時間労働の解消にならないと認めつつ、夏休み期間に休日をまとめ取りできることが、教職の魅力につながると繰り返し答弁しました。

     労使協定が必要との指摘に対しては、地方議会で公務員の勤務条件を決める「勤務条件条例主義」を強調。地方公務員法55条(職員団体との交渉や書面による協定)の対象だと認めたものの、法律本文には55条の内容を盛り込まず、条例による導入を譲りませんでした。

     改正法には12項目の付帯決議が付けられました。勤務時間の記録が公務災害認定の資料になることから、公文書として扱うよう、明記されたのは前進です。しかし、長時間労働を解消する方策は少なく、具体性に欠くと言わざるをえません。また、変形労働の導入要件として、指針に格上げされた時間外上限のガイドラインの順守も含まれていますが、民間のような罰則は伴わず、超勤手当も支払われないままです(図)。

     このままでは長時間労働の解消が見込めないだけでなく、変形労働制の基本である労使協定を結ばない手法が、他の労働者に波及する恐れもあります。

     

    ●条例化阻止の取り組みを

     

     「変形労働制は壮大な無駄。むしろ悪影響を及ぼす」。

     ネット署名で変形労働制の導入撤回を訴えてきた現職教員の西村祐二さんは、衆議院の参考人質疑で改正法を厳しく批判。1日の労働時間が長くなれば、業務量は増え、疲労は蓄積し、過労死が増えると警鐘を鳴らしました。

     法改正後について「本当に教育現場を救うものになるのかどうかを考え、変形労働制(に関する条例)が47都道府県で通らないように訴えていく」と述べ、新たな取り組みを表明。国会審議中もネット署名は約2万筆増え、現在も伸び続けています。

     ネット上では現役の教員らが「介護や育児との両立が困難」「部活動が業務命令時間内になれば、授業準備がおろそかになる」「夏休みに取っていた有休休暇をいつ取れるのか」「所定労働時間を延ばして残業を隠すだけ」など、反発を強めています。

     

    ●公教育は社会の土台

     

     変形労働制の導入の賛否を問わず、異口同音に参考人や野党議員らが訴えたのは(1)業務量の削減(2)教職員定数の改善(3)給特法の改廃――です。経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で国内総生産(GDP)に占める教育予算の割合は日本が最下位。客観的に見ても、予算措置を伴う方策は必須です。

     子どもは誰もが等しく保障された公教育でさまざまなことを学び、成長し、社会の担い手になります。いわば、その社会の土台づくりを支えるのが、教員であり、その労働条件の担保はおのずと社会の質につながります。法改正をわがことと受け止め、市民による教育行政の監視が一層求められます。