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    労働時評/影響力の拡大へ共同を/19年労働運動の回顧と展望

     2019年は労働戦線再編30年と、改元が重なる区切りの年だった。賃金、雇用など労働運動の再構築が重要課題となった1年を回顧し、新年を展望する。

     

    ●岐路に立つ春闘

     

     世界でも異常な日本の賃金低下にあらためて警鐘が鳴らされた。経済協力開発機構(OECD)によると、民間部門の賃金が97年からの20年間で9%も下落したのは主要国では日本だけ。その要因は春闘の停滞だ。長期の「過少ベア」で物価上昇分以下の実質賃金マイナスはこの29年間で17回、12~18年の7年間だけで6回もあり、深刻な賃金デフレを誘引した。

     19春闘も企業の好収益や内部留保増大の一方、労働分配率の低下など分配のゆがみは拡大。ベア獲得には有利とされながらも、連合の最終集計では平均賃上げ5997円(2・07%)で前年プラス63円(同率)。ベアは1560円(0・56%)で昨年比マイナス45円、プラス0・02ポイントにとどまった。19年度も実質賃金割れとなろう。

     産別間で闘い方にも違いが目立つ。UAゼンセンなど内需産別は連合のベア要求設定と産別統一闘争を重視。他方、トヨタは非公開で「脱ベア・諸手当込み」の単組自決春闘に埋没し、社会的責任が問われた。

     経団連も人工知能(AI)など産業・雇用構造の変化を背景に、「脱ベア・自社型春闘」でベア相場を破壊。20春闘は統一闘争と共闘を軸とする社会的な春闘相場の形成、波及の再構築がより重要だ。

     

    ●内部留保還元に踏み込む

     

     分配構造のゆがみ是正や働き方の改善では変化の兆しも見え始めた。

     連合は20春闘方針で初めて「分配構造の転換」を決定。神津里季生会長は12月の中央委員会で「付加価値の適正分配(の原資)として内部留保の検討」を提起した。これまで連合白書などで内部留保の還元は提起されていたが、連合会長として強く主張したのは初めてとされる。

     全労連も20春闘で内部留保の還元を大企業に直接要請し、初めて課税対象とすることも訴えた。

     働き方については36協定の見直しや「同一労働同一賃金」で一時金・福利厚生の改善のほか、「ハラスメント対策」など多彩な成果を上げている。

     

    ●最低賃金で潮目の変化

     

     最賃でも地域間格差の是正と全国一律の実現へ潮目が変わり始めた。

     改定は昨年より1円増の27円、平均901円で、東京、神奈川が初めて時給千円を超えた。影響率も労働者の13%以上、神奈川では25%へ広がり、賃金改善に連動している。

     自民党も最賃の低さによる人材流出などを背景に、最賃一元化推進議員連盟を発足させた。9月30日には全労連などの集会に自民、立憲、国民、共産、社民、れいわ(ビデオメッセージ)の国会議員がそろって参加。全労協なども賛同メッセージを寄せた。

     神津連合会長は10月、「一挙に(実現)は難しい」としつつも「本来は全国一律を目指すべきだ」との見解を初めて示した。

     先進国の最賃は千円台で、日本の水準は低い。地域別に異なる最賃制度は世界で9カ国に過ぎず、59カ国が全国一律だ。中小支援政策を強め、全国一律と水準改善が今後の課題となっている。

     

    ●AI化への対応始まる

     

     AIと労働問題も焦点となった。組合は「活用の期待と雇用不安」などを指摘し、立法を含む政労使の対策強化を掲げている。

     産別では電機連合がAI化の産業政策を策定した。UAゼンセンも新技術導入の際の雇用確保などを労使確認する方針を決定。19春闘では人材育成などを26組合が要求し、8組合が労使合意の成果をあげた。

     インターネット上で仕事を受発注する非雇用就労者の組織化では、料理宅配サービスのウーバーイーツの働き手を対象に、全国ユニオンの支援で国内初の組合が10月に結成された。報酬や事故補償などの要求で団体交渉を申し入れたが、会社は拒否しており、不当労働行為の救済を申し立てる方針だ。連合の神津会長も記者会見に同席し支援を表明した。

     AI化の進展による大量の労働移動や、非雇用就労者の増大は、労働法制の破壊にもつながりかねない。新技術導入と労働者保護へ、労働界の共同行動が重要である。

     

    ●労組の影響力拡大を

     

     連合、全労連、全労協結成から30年。賃金、雇用、福祉破壊など「雇用労働者にとって幸せな時代でなく、組合は本来の役割を果たしてきたか」と藤村博之法政大学教授は厳しく指摘している。

     連合は10月の大会で、「連合ビジョン」を採択し、集団的労使関係の拡大を掲げた。11月12日の30周年記念シンポで神津会長は連合ビジョンの実現を強く訴えた。

     全労連は結成30周年記念行事を11月22日、川崎市内で開き、小田川義和議長が市民と労組、野党の統一戦線的な運動の発展から「共闘・連立の時代へ前進を」と訴えた。

     全労協の渡邉洋議長は9月29日の30周年集会で「戦後最悪の安倍政権の歴史逆行に対し組合の行動力が問われる。全労協が先陣を切ろう」と呼びかけた。

     政治の面では、参院選で市民による野党統一候補が成果を上げ、「全国首長九条の会」も結成された。一方、消費増税10%の強行や福祉改悪、国政私物化の「桜」疑惑、改憲策動など暴政も続く。

     生活と平和をめぐるつばぜり合いの時代。労働運動の社会的影響力を広げ、組織の枠を超えた労組の共同行動が求められる。(鹿田勝一・ジャーナリスト)