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    〈インタビュー/中東海域への自衛隊派遣を問う〉下/日本は米国とイランの仲介を/永山茂樹東海大学教授(憲法学)

     ――日本は何をすれば良いのですか?

     永山 西アジア地域で日本政府は中立的な立場による外交によって、周辺国や地域、人々から強い信頼を得てきた歴史があります。 日本は米国追随だと思われていますが、イランとも太いパイプがある、世界でもまれな存在です。他に両国の仲介役になれる国は思い浮かびません。

     平和を望む世界の人々にとっても日本の中立的な立場は、いまやかけがえのないもの。日本の外交力を活かしてほしい。

     ――今回の自衛隊派遣は閣議決定のみの派遣です。

     防衛省設置法に基づく「調査・研究」だからといって国会の審議なしに派遣するのは「国会の軽視」です。私は三つの軽視を指摘したい。一つは、昨年10月の国会で、自衛隊派遣に関わる野党の質問に防衛大臣は「検討中」として、説明しなかったこと。第2は、国会が閉会したら閣議決定で自衛隊派遣を決めたこと。第3は、国会が関与しない防衛省設置法で派遣したことです。国会の関与を徹底的に排除するためだったと考えます。これでは、国会によるシビリアンコントロール、自衛隊統制が形骸化してしまいます。

     

    ●問題の本質迫る運動を

     

     ――15年の安保法制定で自衛隊派遣のありようは変わったのでしょうか?

     安保法制で国連が統括しない平和活動や他国軍へ支援・参加する場合、特別法を制定しなくてもよくなりました。集団的自衛権の行使も可能です。

     今回は防衛省設置法に基づく「調査・研究」のための派遣なので、仮に現地が戦闘状態になったとしても、法的には集団的自衛権の行使はできません。しかし、実際に現場で集団的自衛権の行使をしないとは限りません。自衛隊の日報隠しを見ても、防衛省は法を守らない危険性がある。

     戦闘状態になった場合、安保法制に基づき、国会での審議を経て、違う部隊が新たに派遣され、集団的自衛権の行使が行われる可能性があります。そのための法整備は既に整っているといわざるを得ません。

     「自衛隊の派遣中止」と合わせて、「安保法制を15年以前の状態に戻せ」と訴えることが大事です。

     今回の中東派遣は、自衛隊の海外派遣を日常化させたい日本政府にとって、「渡りに船」だったのではないでしょうか。その狙いは、憲法9条の形骸化にあります。「憲法9条を変えさせない」運動も重要な課題です。

     ――街頭で「日本は中東から多くの石油を輸入している。タンカーを守るための自衛隊派遣は仕方ない」という声を聞きました。

     むしろ、自衛隊派遣が中東地域におけるイランと米国の緊張関係を続け、悪化させる可能性があります。タンカーなど船舶の安全な航海を確保するために、日本ができることは自衛隊派遣ではなく外交努力です。

     もう一つ、憲法は「国のために命を差し出せ」といった過去の戦争の苦い教訓から生まれたものだったはず。国家が危険を承知で自衛隊員に「行け」と命じることが憲法上、許されるのかどうか。生命を最も尊重する憲法の考え方が根本から問われています。