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    インタビュー/どう見る?70歳までの就業法案(上)/非雇用型就労への呼び水に/伍賀一道金沢大学名誉教授に聞く

     今通常国会に、雇用保険法や労災保険法、高年齢者雇用安定法などの改正案をまとめた一括法案が提出される。目玉の一つが、70歳までの就業確保を企業の努力義務とすること。その中には、労働者保護規制を受けない「個人請負」の就業や起業支援という、従来の労働政策とは異質の内容が盛り込まれている。伍賀一道金沢大学名誉教授(雇用政策)に話を聞いた。

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     「70歳までの就業確保」の今回の構想は「一億総活躍社会」で位置づけられている。労働力不足を解消するための女性、高齢者、外国人の就労促進と、社会保障の削減。この二つを同時に行う政策が「全世代型社会保障」だ。

     働き方改革関連法に「生産性の向上」という文言が入ったように、「雇用によらない働き方」や副業・兼業を進めてきた経済産業省の視点がかなり入っている。経済政策の中に労働政策を組み込むという視点がはっきりしてきた。

     象徴的なのは、一括法案の骨格が、昨年5月の「未来投資会議(議長・安倍晋三首相)」で既に示されていたこと。同会議は経産省主導の「産業競争力会議」の後継組織である。厚生労働省の労働政策審議会に諮る前に、ほぼ結論が経産省主導で出来ていた。

     昨年12月19日には、政府の全世代型社会保障検討会議が中間報告を発表。現政権のブレーンで結論を出し労政審で議論させるというやり方が「働き方改革」に続いて採用された。竹中平蔵東洋大学教授ら規制改革会議の提言によって始まった「労政審改革」以来、「政(公益)労使による三者構成原則」の形がい化がさらに進んだといえる。

     成長戦略を検討していた未来投資会議の中間報告も同じ日に出された。その中では「多様な働き方の一つとして、希望する個人が個人事業主・フリーランスを選択できる環境を整える必要がある」とし、今後の政策の方針を検討するとしている。

     

    ●狙いは日本型雇用の解体

     

     一括法案の中の「70歳までの就業機会の確保」では、企業に努力義務を課す選択肢として、定年延長や定年の廃止のほか、個人事業主としての就業や起業支援などを並べている。企業は個人請負を最も多く選ぶだろう。65歳を過ぎた人は非雇用の契約にして、同じ業務を続けてもらうやり方だ。

     日本経済新聞の1月13日付では、昨年1年間で早期希望退職の募集を行った上場企業が35社あり、そのうちの6割が黒字だったと報じた。規模は9千人に及んだという。

     背景にデジタル化、人工知能(AI)などの技術の進展がある。収益が黒字の内に、新しい技術に対応できるよう働き手を入れ替えたいという意図があるのだと思われる。今は人手不足だが、デジタル技術の進展次第では、遠くない時期に「人余り」に急転する可能性がある。企業は従業員を個人事業主にすることでこのような状況にも対応しやすくなる。

     健康機器メーカーのタニタという会社は既に約1割が社員から個人事業主に転換して働いているという。個人事業主であれば、不要になれば簡単に契約を打ち切ることができる。一括法案は、そのような状態を制度的に促進しようとしている。反対意見の出にくい高齢者就業を手始めに低い年齢にも広げていこうとしているのだろう。

     狙いは、長期雇用を特徴とする「日本型雇用」を掘り崩して雇用を流動化させること。「雇用によらない働き方」を推進する経産省主導の政策であり、警戒が必要だ。