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    持ち帰り残業の扱いが焦点に/公立学校教員の時間外上限指針/1月の熊本地裁判決にみる

     公立学校教員の時間外勤務を定めた給特法が改正され、「月45時間内・年360時間内」の時間外勤務の上限が4月から指針になる。問題は持ち帰り残業の扱いだ。

     文部科学省は指針に関する文書で、持ち帰り残業に言及。テレワークなどルール化されたもの以外は原則として認めないこととした。今後、指針が公務災害の認定に影響を与える可能性が指摘されている。持ち帰り残業の評価が明暗を分けた今年1月の熊本地裁判決(行政訴訟)の内容を紹介する。

     

    ●学力向上のプレッシャー

     

     中浦純吉さん(仮名、現在52歳)の勤務校は当時、県と市の学力向上や研究の指定校になっていた。県の学力調査の結果が振るわず、研究主任の中浦さんは、プレッシャーを感じていた。担任は持たなかったが、算数の授業を2人で教えるTT方式で、つまずきのある子をサポートしていた。授業時間は1コマを除き全て埋まり、部活動指導もこなした。研究発表会の日帰り出張では自家用車を運転し、往復約300キロを移動。校内研修の準備や補助教材の作成など、自宅でも働き、徹夜に近い日も珍しくなかった。休暇を取ったのは、子どもが重い肺炎にかかり、看病が必要になった時ぐらいだった。

     研究論文集の取りまとめ作業に追われる中、職場でろれつが回らなくなり、帰宅後に脳出血で倒れた。四肢にまひが残る重度の障害を負った。言葉を発することはできず、文字盤を介して意志疎通を行う。現在も病院で加療中だ。

     

    ●残業90時間でも認めず

     

     中浦さんは公務災害が認められず、熊本地方裁判所へ提訴した。発症前1カ月の時間外勤務は短くとも108時間44分と主張。そのうち、持ち帰り残業は49時間30分で、自宅パソコンの起動時間の記録と教材の成果物などから算出したという。

     熊本地裁は1月末、訴えを退けた。中浦さんの業務は著しく過重なものではないと判断。自宅パソコンの起動時間は直ちに操作時間を意味するものではなく、休憩や公務と関係のない作業をしていた可能性があると指摘した。発症1カ月前の時間外勤務は、最長でも89時間54分とし、過労死ラインの単月100時間を下回ることから、発症と業務の因果関係は認められないと結論付けた。

     持ち帰り残業は、校内に比べ、身体的精神的負荷が低いものであると評価し、出張の長距離運転も労働と認めなかった。

     

    ●労働時間の立証は原告

     

     中浦さんは福岡高裁に控訴した。裁判を支援する熊本県教職員組合の上杉謙一郎書記長は、服務監督権者(市教育委員会)が勤務時間の把握を怠っていたと批判する。「被災者やその家族が時間外の実態を証明しなければならなかった。その主張さえ部分的にしか認められず、到底納得がいかない」と憤った。