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    災害に弱くなった自治体/18年岡山水害と自治体労組

     近年、「観測史上最大級」の豪雨による災害が多発している。想定を超えた災害は次に日本のどこを襲うかは分からない。ライフラインの復旧、避難者の対応、集中する行政手続き、支援の手配と、住民の暮らしを支えるために、地方自治体の職員が昼夜の別なく復旧、支援に携わっている。2000年代の「小泉構造改革」で地方公務員の定数の削減が加速され、平成の市町村合併で自治体は急速に住民にとって身近ではない機関となりつつある。災害に対し脆弱(ぜいじゃく)な自治体になっているのではないか。一昨年夏、豪雨災害に遭った岡山県の自治体労組の組合員に振り返ってもらった。

     

    ①〈発災直後の真備の状況〉/「どこでも起き得る現象」/自治労倉敷市職組

     岡山県倉敷市では18年の水害で、52人が亡くなり、5700棟の家屋が全・半壊の被害に遭った。最も被害が深刻だった真備地区は、市中心部から北へ山を越えた先にある。平成の大合併で旧真備町が倉敷市に編入された。奈良時代の遣唐使で知られる吉備真備ゆかりの土地である。

     真備地区は、東西を流れる小田川と、街の東側を南下する高梁川の二つの一級河川が合流する。そのため古来より度々水害が起きていた。直近の大規模災害は1976年。70年代以降、水島臨海工業地帯のベッドタウンとして造成された宅地が、今回の水害で水没した。

     

    ●浸水時期、確認せず

     

     7月6日深夜、前日から降り続いた記録的豪雨と、中国電力によるダム放流で高梁川の水量が急増した。そのため、高梁川に流れ込むはずの、小田川の排水がせき止められて逆流する「バックウォーター現象」が発生し、小田川に流れ込む支流の各所で堤防の決壊を招いたとみられている。

     同市は23時45分、最も重い緊急避難指示を小田川南側に発令。翌7日午前1時30分には、小田川北側にも緊急避難指示を出した。

     一方、最も深刻な被害が及んだ、小田川北側に流れ込む支流の流域では、避難指示よりも早くに浸水していたとの住民の証言を当時の地方紙が報じている。市の検証報告書にはこの点についての言及はない。

     報告書には、県が管理する支流について「水位計は設置されておらず、水位の把握は困難だった」とあるだけ。市担当者によると、現在でも支流の浸水、決壊の時刻は確定できていないという。市は、復旧後、両河川に水位計を設置し、市民が水位情報をインターネットで閲覧できるようになったとして「改善」をアピールしている。

     旧真備町の職員でつくる自治労倉敷市職組の百本敏昭副委員長は「かつては頻繁に災害があり、町役場では、どこが水没した、土砂崩れだ、と地図を広げて緊急の対応策を練っていた。女性を含む職員総出で土のうを作ったこともあった。国や県の管轄だろうが、河川の水位は必ず町の職員が確認していたものだ。それが縦割りの対応でおろそかになった。旧真備町時代では考えられない事態が起きていた」と話す。

     

    ●地元在住は約15人

     

     05年の合併前に約180人の職員がいた町役場は、今では非正規職員を含め約50人の支所となった。防災係も合併直後7人いた(非正規は1人)が、今では6人のうち3人が非正規。発災直後はほとんどを電話対応に追われた。

     対応の遅れは、合併に伴う職員の広域異動により、地域を知る職員が減ったことの影響もあったという。今では地元在住は約15人を数える程度。地理、地形、地域の実情に詳しい職員は減った。「本庁から来て間もなければ、住民からの緊急の電話で小字の地名を告げられてもすぐには分からない。現場に行っても地理に不案内な所もある。旧町時代であれば、集落の中心的人物から情報を収集することもできただろう」。頼みの消防団は自営業者や農家の減少で担い手は高齢化している。

     7日、真備地区では日中に3~5メートルの浸水で家屋が水没し、犠牲者が出た。多くが高齢者や障害者で、死因の9割が溺死。家の2階に上がれなかった人が犠牲になった。突然の水害は災害弱者を襲った。

     百本さんは「人員削減で真備支所庁舎のスペースが空いたため、それまで2階にあった防災対策の部署を18年春に1階に降ろした。その矢先に豪雨で水没し、機能を失った。地元を知る職員が以前のようにいて、防災対応が機能していれば被害状況はだいぶ違っていたのではないか。末政川の東側は7日朝に浸水し、10数人が犠牲になっている。西側が既に浸水しているという情報が東側に伝わっていなかった。夜中に避難して朝方帰宅し被災した人もいる。それぐらいに普通に生活していた」と、緊急時の情報伝達に大きな問題があったと指摘する。

     

    ●真備だけの話ではない

     

     防災の面では合併により脆弱な体制となってしまったが、一方で、災害後の復旧対応については、旧真備町だけではとても対応できなかったと、同副委員長は振り返りながら、次のように語る。

     「市町村合併により、おしなべて周辺部の自治体は少人数でやっとこさ運営している。職員が10人程度というところもある。一定数いる旧町村の行政支所でも半数近くは非正規。非正規職員は当然、災害時に緊急招集に応じて職場や被災地に駆けつける義務はない。こういう状況で災害に遭ったらどうにもならない。これは真備だけの話ではなく、全国のどの自治体でも直面しうる問題だ」