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    〈災害に弱くなった自治体〉(3)/技術職の計画的採用を/自治労岡山県本部 安原和行委員長

     2018年の豪雨災害では、自治体の技術職の職員不足が浮き彫りになった。当時、岡山県総社市で土木技術職の職員として復旧に携わった自治労岡山県本部の安原和行委員長は「技術職の計画的採用が不可欠」と話す。そのためには、当局はもちろん職場の労組も業務量を精査し、具体的な定員補充を当局に求めることが必要と強調する。

     同市は、被害が最も大きかった倉敷市真備地区の北側に隣接する。桃太郎伝説のまちの一つとして18年には日本遺産に登録された。同年7月の水害では、高梁川氾濫の影響で市内のアルミ工場が爆発し、近隣住民に二重の被害を与えた。

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     ――土木技術職は災害時にどのような仕事を?

     安原 災害が起きると、土木技術職員は現場の確認と復旧工事のための測量設計を行う。自前でするのか、業者に委託するのか、業者の選定や依頼、工事の段取りなど膨大な緊急業務が発生する。書類も残さなければならない。

     道路、水路、池、山、堤防、場合によっては個人の田畑、農地と、市全域で影響が出た全ての事象が対象となる。たとえ市の所管でなくても現場を確認し、県や国に状況を報告する。普段の持ち場を超え、職員全員で手分けする。

     ――土木技術職はどのぐらい減りましたか?

     05年の合併当時に約45人いたのが、退職後不補充が続き、現在は約25人にまでほぼ半減した。他部署の職員から「人員が不足しているのでは」との声が出て、近年採用が復活したが、人材確保には苦労している。現在は通常業務をこなすだけでもギリギリだ。

      ――発災直後の超過勤務(残業)は?

     発災直後が月130時間で、8月が100時間、9月以降は100時間を下回った。通常業務だけでも手いっぱい。災害支援で県外から応援に来てくれて大分負担は減ったが、長時間労働にならざるを得なかった。やはりある程度余裕のある人員体制が必要だ。

     

    ●計画的な採用が必要

     

     ――1月の自治労中央委で技術職不足について発言されました

     技術職不足のひずみは通常業務にも表れている。管理職になると忙しくなるので、現場を担当できる職員がほしい。でも、現状では管理職も自ら現場を回っている。

     国の国土強靭(きょうじん)化政策の一環で、行政需要は今後さらに増えていく。建物や橋などの社会インフラの多くが、次々に耐用年数の期限を迎えるのでその対応が必要だ。

     以前と比べると予算規模は減っているが、だからといって仕事が減ったということにはならない。今まで単年で行っていた工事を、複数年かけてするようになり、業務の手間は増えるからだ。

     ――他部署から技術職不足が指摘された?

     教育委員会が担う学校の改修は、大きな自治体だと教委に技術職がいて自前で行うが、小さな自治体だと、技術職がいる他の部署に設計を依頼する。その他にも、防火水槽の改修は消防署から依頼が来るなど、技術職がいない部署が管理している公共施設の工事発注については、技術職員がいる部署に設計を依頼することになる。

     技術職にとっては、通常業務が忙しい中で、依頼された業務も受け持つことになる。そうした忙しさが一般事務の職員にも伝わったのだと思う。

     ――いい方向?

     ただ、採用募集しても人が来ない。技術職を減らし過ぎたことが全国的に認識され始め、同じタイミングで一斉に採用を始めたためと考えられる。

     それと、景気が回復してくると、民間の土木工事が増えるため、技術職が民間に多く流れ、自治体の採用試験に来ない。

     公務職場の採用試験を受ける人の多くは、県、政令指定都市、中核市といった大きな自治体に向かう。せっかく合格通知を出してもそちらへの就職が優先されるため、その他の自治体では採用を辞退されるケースがある。せっかく受験者がいてもその年度の採用がゼロということもある。民間だけでなく、公務職場同士でも人を取り合っている状況だ。

     今は若干名で募集し、いい人がいれば複数人採っている。ただ、特定の年代に人が偏り、近い将来、同じ年代に管理職がたくさんいるようになっても困る。将来を見通して計画的に必要な人数を採ることを、組合としても提案していかなければならない。

     

    ●組合だからできること

     

     ――今後のことは?

     組合がしっかり具体的に要求をしていくことが大事だ。「この部署は何人足りていないから採用を」と。職場の話を聞き、事業量を精査しながら、何人足りないということを各職場できちんと把握して交渉することが必要だ。

     職員個人が管理職に訴えても、どの部署も人員不足なので当局への人員増要請は抑制的になりがち。職員が「仕事がきつくて大変です」と上司に訴えても、その上位の管理職に伝えられる時には「彼、少ししんどそうですけど、大丈夫でしょう」とニュアンスが変わり、それが上層部に行くとさらに薄まってしまう。

     「もう倒れそうだ」という声をダイレクトに当局に伝えられるのは、職場の労働組合しかない。それこそが組合の役割だ。

     ――国に対しては?

     総務省が人員管理のあり方について検討を始めた。第1回の議事録をみると、現業職の削減と民間委託を推進してきた施策に疑問を呈する発言や、職員を減らし過ぎたという発言が出されている。ぜひ改善方向が示されるよう注目するとともに、総務省対策を強めていかなければならない。