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    〈働く現場から〉新型コロナが弱者を直撃/ジャーナリスト 東海林智

     新型コロナウイルスの感染拡大の影響が広がっている。政府は「緊急事態宣言」を発出、その適用を全国に広げた。緊迫感が漂うのと同時に、景気や雇用情勢も一気に悪化している。未曽有の被害が広がりつつある。

     そう実感したのは、4月18、19日に全国一斉で行われた新型コロナ関連の「なんでも相談会」や、4月25、26日に首都圏学生ユニオンが実施した学生対象のホットラインに相談員として参加したからだ。相談を受けた感触では、2008年末のリーマン・ショック後の経済危機を大きく超える、大変な事態が起こりつつあると感じた。

     

    ●「派遣村」超える被害

     

     これは僕だけの感想ではない。同じく相談員として参加した猪股正弁護士も「相談を受けていて、その被害と規模の大きさに恐ろしくなった」と話した。猪股弁護士と僕の共通点は、リーマン・ショックが起きた際、東京・日比谷公園で開かれた「年越し派遣村」で、共に村の運営や相談活動を担った点だ。2人の意見が図らずも一致したのだ。

     08年の派遣村の時、ターゲットは主に年末に向けて契約途中の仕事を解除される「派遣切り」に遭い、仕事も住む場所も失った製造業務派遣の労働者だった。もちろん、正社員やパート労働者の被害もあったのだが、多くは派遣労働者だった。ところが、今回被害に遭い、これからの生活を心配しているのは多種多様な市民だ。

     なんでも相談会の実行委員会の集計では全国で5千件の相談があり、分類では、無職の人からが最多で千件を超えた。それ以外も自営業者や個人請負・業務請負、パート・アルバイトに正社員、派遣社員と、社会のあらゆる人々から満遍なく相談が寄せられた。内容(複数回答)は、生活費問題の約2700件、労働問題の約700件などが目立った。

     10万円の給付発表直後で、そのことが関心を集めたのも確かだが、「生活が成り立たない」「明日食べるものがない」など悲鳴のような内容が多く、終息が見通せない新型コロナによる被害の甚大さを透かして見せた。相談会にかけられた電話は42万コールで、つながった5千件はわずかな数だ。

     

    ●現場知らずの安倍政権

     

     学生ユニオンへの相談もまた深刻だった。その多くは、緊急宣言に前後して「仕事がなくなった」「休業補償が示されない」などだった。首都圏青年ユニオンの原田仁希委員長は「学費や生活費の補填(ほてん)など学生生活の維持にアルバイトの賃金が果たす役割は大きい。何の補償もなく賃金が断たれれば、学業を断念せざるを得なくなる」とその深刻さを語る。

     オンライン授業に必要なWiFi設備やパソコン購入にお金がかかるのに、バイトがなくなったなどの訴えがあった。緊急宣言を機に有無を言わさず仕事がなくなり、休業補償などについて何の説明も受けていないケースが多く「学生だから補償はない」と、うそをつかれたケースも。

     高校2年生の男子は、大学進学の資金をためるために1年生の時から、放課後に飲食店でバイトをしている。彼は「このまま仕事も補償もないなら、進学を諦めなければならない。悔しい」と声を震わせた。こうした学生やシングルマザー、社会的弱者、貧困層を幅広く直撃しそうだ。

     猪股弁護士は「政府は現場を見ていない」と訴える。規模もスピードも足りない政府の対策に現場のいら立ちは募る。