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    私権制限できる憲法が必要?/改憲派のフォーラム/緊急事態条項めぐる主張

     改憲を主張する団体が5月3日に開いた憲法フォーラムをインターネットで視聴した。新型コロナウイルス対策として、強制力のない緊急事態宣言ではなく、外出や営業の禁止など私権を制限できる緊急事態条項を憲法に書き込めと主張したのが特徴だ。

     主催したのは、改憲派の「美しい日本の憲法をつくる国民の会」と「民間憲法臨調」。今年は新型コロナウイルスの感染防止のため、集会方式をやめて役員らが所見を述べる模様を生中継した。

     両団体の代表を務める櫻井よしこ氏は、外出自粛・休業の要請を無視する人々がいることを問題視。それは憲法によって私権や自由などの基本的人権を制限できないためだとし、今こそ改憲が必要だと訴えた。

     

    ●補償の必要性に触れず

     

     ちょっと待ってほしい。そもそも憲法は基本的人権を無制限に認めているわけではない。「公共の福祉に反しない限り」という制限を付けており、特に営業の自由を含む財産権(29条)などは公共的な観点から制限できるとしている。新型コロナの感染防止という目的に照らせば、感染を招きやすい店の営業や外出を制限することは憲法上も十分可能だ。

     ただし、損失が発生する場合は「正当な補償」(29条)が必要になる。「家にいろ」「店を閉めろ」と命令するだけでは不十分ということ。要は、政府がまともな補償をしようとしない姿勢が問題なのであって、憲法に欠陥があるという櫻井氏らの主張は当たらない。

     この日、憲法フォーラムは休業補償の必要性に全く触れなかった。主張通り緊急事態条項を設けて政府に「命令」「罰則」などの強制力を持たせれば、国民は従わざるを得ないだろう。しかし、正当な補償がなければ生活と営業は破綻する。それでもいいというのだろうか。(編集長 伊藤篤)

     

    〈写真〉憲法フォーラムにビデオメッセージを寄せた安倍首相。あらためて改憲への決意を語った(5月3日)