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    インタビュー/〈新型コロナと労災補償〉対象広げた新通達の活用を/日本労働弁護団闘争本部長 棗一郎弁護士

     厚生労働省はこのほど、新型コロナウイルス感染症の労働災害補償の取り扱いに関する通達を出した(基補発0428第1号)。医療従事者をはじめ、感染リスクにさらされながら働く労働者が万が一発症した場合、労災は適用されるのか。日本労働弁護団の棗一郎闘争本部長に話を聞いた。

     

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     労災の認定は、病気やけがが仕事中に発生した「業務遂行性」と仕事が原因になった「業務起因性」の条件を満たしていなければなりません。労働基準法施行規則では起因性の対象の一つとして、ウイルスなど病原体による疾病を定めています。今回の通達は規則に沿って、医療従事者とそれ以外の労働者の二つのケースについて取り扱いを示したのが特徴です。

     

    ●医療従事者は原則対象に

     

     「医療従事者」のケースでは、患者の診療、看護または介護の業務などに従事する医師、看護師、介護従事者、研究などの目的で病原体を扱う人が当てはまります。業務外での感染が明らかな場合を除き、原則として労災の対象と明記しました。

     対象となる患者を感染者や感染の疑いがある人に限定していない点が重要です。新型コロナウイルスは感染しても症状が出ずに感染を広げてしまう危険性があり、あらかじめ感染の疑いのある人を特定するのは難しい。介護も同じで、利用者を限定していません。病院の介護に限らず、障害者施設や介護老人保健施設なども含まれると理解すべきでしょう。また、歯科医院で働く歯科衛生士なども対象と考えられます。

     医療現場には、診療行為に携わっているにもかかわらず、大学院生の身分であったり、研修を理由に書面で労働契約が締結されなかったりで、実態に見合う賃金が支払われない「無給医」の問題があります。病院の指揮命令に従って診療行為を行えば、労働者だと最高裁で認められていますから、無給医であっても労災の対象になるでしょう。

     

    ●一般労働者も救済に道

     

     一方、医療従事者以外の一般労働者のケースは、業務に感染源が内在していたことが明らかであれば、労災の対象になります。感染経路がわからない場合であっても、感染リスクが相対的に高いと考えられる環境で働く人については調査を行うなどして、個別に判断するよう求めています。これは認定に積極的な姿勢と評価できます。

     具体的に感染リスクが高い例として、本人を含め2人以上の感染者が確認された職場と、顧客と接触する機会が多い環境での業務が示されました。スーパーなどの小売業や飲食店、タクシーなど、不特定多数との接客がある労働者は対象になります。

     労災の申請は本人が行うもので、使用者の協力がなくても可能です。業務に一定のリスクを伴う場合、危険手当を支給する職場もあるでしょう。正社員にのみ危険手当を支給するのは、4月に施行されたパートタイム・有期雇用労働法の不合理な待遇の禁止(第8条)に違反します。

     

    ●労働組合の対応が必要

     

     病院や介護施設などで多数のクラスターが発生しているのに、現在は極端に労災の申請・認定件数が少ない。使用者が感染の事実を隠したがったり、本人が通達を知らなかったりするからでしょう。医療従事者や介護労働者、感染リスクの高い職場で働く労働者を組織する労働組合は、安全衛生委員会を開くように使用者に要求して積極的に感染防止対策を取らせるとともに、万一労働者が感染した場合には、この通達を活用して労災申請をサポートするようにしてください。