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    労働時評/労組の取り組みが政府動かす/「ポストコロナ」へ政治変革を

     新型コロナウイルス感染拡大で労働運動は特異な取り組みを余儀なくされている。一方、政府の後手の対策に対しての、組合や市民による運動の成果も見られる。「ポストコロナ」を展望した、新たな政治経済の変革も大きな課題だ。歴史に残るであろう、この間の運動にスポットを当てた。

     

    ●集うことが制限される

     

     2月の感染拡大から緊急事態宣言解除(5月25日)まで、外出・集会の自粛要請や公園などの使用中止と相まって、組合の集会や会議の中止・延期が続出し、ネット配信など形を変えた取り組みとなった。

     最初に連合が3月3日の春闘集会と街頭宣伝を中止してオンライン集会を動画で配信した。春闘65年、連合31年で初めてである。各産別の集会中止も相次いだ。金属労協は44年の春闘で初のウェブ会見を行い、連合も4月16日から会見をウェブ方式に変えた。全労連は3月5日の春闘集会を中止し、都内の街頭宣伝に切り変えた。

     中央メーデーは、連合、全労連は室内ウェブ配信、全労協系はウェブと駅頭宣伝など、労働運動史上異例の式典となった。

     

    ●深刻な相談、組合に殺到

     

     全労連は4月30日、「コロナ禍による解雇・雇い止めは11年前のリーマンショック時の年越し派遣村より深刻な事態だ」と、労働相談の実情を報告。952件の電話相談では解雇(93件)や賃下げが多かった。非正規労働者からの相談が53%を占め、多様な形の派遣切りも見られた。

     連合が3月30日から2日間行った労働相談には全国から168件の問い合わせがあり、解雇ルール無視やハラスメントの事例が目立った。

     日本労働弁護団も電話相談を実施したほか、反貧困ネットワークなど「いのちとくらしを守る 何でも相談会実行委員会」の全国31カ所の会場には、5009件の相談が寄せられた。

     運動の成果もあった。都内タクシー会社のロイヤルリムジングループは従業員全員、約600人に退職を迫ったが、グループ内の目黒自動車交通の自交総連組合員などが交渉で撤回させ、雇用調整助成金活用などによる事業継続について合意した。

     医療従事者のコロナ感染について、厚労省は原則として労災補償の対象とする通達を出した。全国医師ユニオンや医労連などが要請していた。

     全労連の労働相談では飲食店で働くパート労働者が突然解雇され、4人が組合に加入して交渉し解決(奈良)。中立系の総合サポートユニオンはコナミスポーツクラブの非正規インストラクターへの休業手当支給を実現させている。

     

    ●政府要請でも成果

     

     政府要請でも成果をあげている。連合と全労連はほぼ共通した内容で一斉休校に伴う休業助成金や一時休業に伴う雇用調整助成金の拡充、内定取り消しへの対応、中小企業支援などの緊急要請を数回実施。各産別、地方も関係省庁への要請を繰り広げた。

     医療崩壊にさらされている医労連は4月25日、全国152病院の実態調査を発表し、政府に医師・看護師・医療器具確保など第3次の要請も行っている。

     研究者や弁護士でつくる非正規労働者の権利実現全国会議や、中央労福協、奨学金問題対策全国会議なども政府に要請した。

     「外出自粛・休業要請と補償は一体」の掛け声のもと、雇用調整助成金申請の簡素化と改善(助成率と上限額の引き上げ)や、国民1人10万円給付への予算組み替え、フリーランス支援、学生支援、家賃補助などを実現させつつある。

     

    ●グローバル化の失敗

     

     ポストコロナを見据えた、新たな社会のあり方も国内外で論議され始めた。

     国際労働組合総連合(ITUC)は世界に広がった感染は「グローバル化モデルの失敗」であり、「公的医療制度が緊縮政策によって弱められ、働く者の権利侵害が進んだことだ」と指摘。国際労働機関(ILO)も「各国で雇用と労働条件を守る適正な緊急政策」を訴えている。

     コロナ危機は、日本では長期にわたる新自由主義の規制緩和による、賃金、雇用、福祉破壊の失政の結果でもある。まして危機に乗じた、緊急事態条項新設などの改憲論議は論外だ。

     政府に対する世論も大きく変化した。検察庁法改悪案は「火事場泥棒」と批判され、7日間で約1千万人もの〃ツイッターデモ〃となり、今国会での採決断念に追い込んだ。安倍内閣の支持率も20%台と過去最低に急落している。

     

    ●暮らしと命守る政治に

     

     コロナ後を含め、連合は5月21日の中央執行委員会(持ち回り)で、「雇用、生活、経済を3本柱として社会の構造変革を促す」などの政策を確認した。

     全労連は7月に開催する定期大会で、「ポストコロナ」へ支援制度の恒常化を求め、「社会、経済、財政の根本的変革と憲法を守り、大企業・富裕層優先の政治の転換」を提起するという。

     一方、経団連などは世界同時不況といわれる中、日本も実質成長率が20年にマイナス3・4%と大幅下落も予測。コロナ終息後に「社会の姿も変化」するとして、企業のデジタル化やテレワークの拡大などを踏まえ、生産性向上と効率化へ、個人の業績・成果に基づく人事評価を強める動きも見られる。

     ポストコロナの世直しは効率優先でなく、暮らしと命を守ることを第一とする政治変革が課題。労働界と野党、市民の共同の拡大が求められている。(ジャーナリスト・鹿田勝一)