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    説明もなく従業員を解雇/うどんすきの東京美々卯/組合は都労委に救済申し立て

     鍋料理うどんすきの老舗で知られる美々卯。首都圏で事業を展開していた東京美々卯が突然、会社解散を発表。5月20日、全6店舗を閉鎖し従業員を「解雇」した。従業員の一部が加入する全労連・全国一般東京地本一般合同労組は同日、誠実な団体交渉や雇用保障を求めて、東京都労働委員会に不当労働行為の救済を申し立てた。

     

    ●全従業員に退職迫る

     

     東京美々卯は全従業員に対して退職合意書にサインするよう求めた。「退職合意書を(全員分)そろえて出さないと手続きができない」と迫り、従業員の多くが合意したという。しかし、全店舗閉鎖に至る経緯や財務状況についての説明がなく、7人が退職合意書の撤回を要求。2人はサインしなかった。

     5月19日の団体交渉で労組は、財務資料の提出や事業継続の可能性について繰り返し説明を求めたが、会社側は答えず、その場で退職に合意しなかった2人に解雇を通告。退職合意書の撤回を求めていた7人に対しては「認めない」と突き放した。

     組合員の要求は、事業の継続と雇用の維持。社員寮で暮らす従業員も少なくなく、突然の解雇は働く場と住まいを同時に失うことになる。

     

    ●倒産ではなく解散

     

     組合側代理人の佐々木亮弁護士は5月22日の会見で、今回のケースについて「倒産ではなく、プラス資産を持った上での解散という点が特徴だ」と話す。新型コロナウイルス感染拡大による影響はあったものの、同系列の大阪にある美々卯のホームページには5月19日時点で、「(東京美々卯は)手元資金が十分ある」「無借金経営を続けており、外部から資金調達する必要性は全くない」とあった。

     佐々木弁護士は「会社は解雇回避努力も含めて、なぜ解雇に至ったのかの説明を従業員に十分にしなければいけないのに、ろくな説明をしていない。雇用維持への責任のなさを感じる。コロナ禍で従業員を切り、会社だけ『いち抜けた』というわけにはいかない」と語った。今後、訴訟も予定しているという。

     

    ●労組への攻撃、今も

     

     実は6年前にも、労組は東京の新橋店と青山寮の閉鎖をめぐり都労委に救済を申し立てている。その結果、2015年に店舗の営業継続や住まいの確保を労使で合意し、和解協定書を結んだ経緯がある。

     当時の申立書によると、東京美々卯の経営に実質的に関与していた大阪の美々卯の薩摩和男社長が分会長や組合員に対して執拗(しつよう)に組合脱退を迫るなど、労組つぶしが行われていた。攻撃はその後も続いており、組合のロッカーが勝手に撤去されたり、組合掲示板に貼ってあった組合名のシールが剥がされたりしている。

     

    ●組合に加入し闘う

     

     今回の問題を機に新たに2人が組合に加入した。ホールで働くAさん(21)は高校卒業後に上京し、社員寮で暮らしながら働いている。退職合意書には最後までサインせず、解雇を通告された。

     Aさんは「会社のやり方に納得できず組合に加入した。会社に退職を迫る理由を聞いても説明してくれず、寮からも退去を迫られていて、不安だ」と心境を語っている。