「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    〈働く現場から〉休業補償は働く者の命綱だ/ジャーナリスト 東海林智

     前回(5月2日付)に続き、新型コロナウイルスの感染拡大から見えてきたことを書く。日々の新聞やテレビなどメディアの大々的な報道で食傷気味であろうことは十分想像できる。だが、新型コロナが引き起こした未曾有の事態で、普段はあまり表面に出てこない問題があぶり出されてきた。どんなことが起きているのか、労働問題からアプローチしてみる。

     

    ●正規労働者も危うい

     

     新型コロナ関連の出来事で、働く者に大きなインパクトがあったのは、休業補償だろう。国が4月に緊急事態宣言を出した頃から大きな問題になっていった。宣言によって、感染拡大防止の名目で学校などが休校となり、劇場や映画館、美術館などの閉鎖が続いた。そして、スーパーなど生活の維持に必要な施設を除いて、〃営業自粛〃が要請され、飲食店を含む多くの店が営業を自粛した。

     経済活動がストップしたら、そこで働く者の生活も大きく影響を受ける。その間の休業補償がなければ生活は成り立たない。この休業補償問題から、非正規労働者のみならず、多くの労働者が実は危うい状況で働いていることが浮き彫りになった。

     

    ●まず年休を使え?

     

     総合サポートユニオンに休業補償の相談を持ち込んだのは、百貨店の化粧品売り場で販売を担当する外資系メーカーの正社員女性だ。4月上旬から、百貨店の臨時休業に伴い就業できなくなった。会社は休業補償に関して、「個人が年次有給休暇を使うことによって給与を100%補償する」との通知を出した。年休がまだ付与されていない者や休業日数に対して付与日数が足りない者は雇用調整助成金を使い、固定給の6割を補償するとしていた。

     2人の子を育てるシングルマザーの女性は、新型コロナの先行きも見通せない中で、年休を全て使ってしまったら、業務が再開して子どものために休む必要が生じた時に無休になってしまうことに危機感を感じ、雇調金を使って100%補償することを会社に求めたが「年休を残すのなら6割の休業手当だ」と繰り返すだけで、まともに対応しなかった。女性はサポユニに加入、交渉を申し込むと、会社は交渉する前に「4月の臨時休業は通常月と同様(の賃金を)支給する」と回答してきた。

     女性は勤務場所の百貨店労組が、100%の賃金補償で労使合意したことを知り、声を上げることにした。背景には、対面の仕事であるにもかかわらず、何の対策も示さない会社側が年休で休業補償することに不安を感じたためという。女性は「労組がしっかりしていた百貨店は、労働者が守られているという感じがした。同じ職場で同じように正社員なのに、不安の中で働く自分は何なのかと思った」と話した。

     

    ●足下見る外資系企業

     

     外資系の会社では、今回の事態で「日本の労基法が適用されないかのような対応をしている」(外資系IT企業の男性)との声が出ている。この男性は「自主退職して下さい。そうでなければ懲戒解雇にする」と迫られた。懲戒解雇にする理由は説明しない。理由などないのだ。男性は「外資では、転職する時になぜ解雇になったのかと聞かれ、不利になる。足下を見られている」と悔しさをにじませた。

     今回は正社員を取り上げたが、新型コロナに関連して、さまざまな労働の問題点が吹き出している。個人請負、日雇い派遣、最低賃金……。政府が進めた新自由主義的な労働政策のゆがみがコロナであぶり出された。今後もその実態を報告していく。(続く)