「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    労働時評/コロナ禍打ち破る最賃闘争/中小支援強め、先進諸国並みに

     新型コロナ禍の下で最賃改定闘争が本格化した。情勢は厳しいが、最賃引き上げへ労働界や自民党内から新たな動きも見られる。英国では最賃6・2%アップと前進している。

     

    ●誤りを繰り返すな

     

     日本商工会議所などはコロナ感染拡大による景気悪化を理由に「最賃引き上げ凍結」の検討を求めている。安倍首相は中小企業の厳しい状況や〃雇用優先〃から引き上げに抑制的な姿勢を見せている。

     景気後退で経営側は「雇用を優先し最賃抑制」を主張してきた。世界同時不況のリーマンショック時も、最賃は2008年の16円増(2・33%)から09年に10円(1・42%)へ抑制された。一方、雇用をめぐっては安易な「派遣切り」が横行。国民の消費購買力も落ち込み、長期デフレから抜け出せなくなった。

     経営側の主張と異なり、近年の最賃アップでも失業は増えていない。最賃は09年の全国加重平均713円から19年の901円まで10年間で188円上がった。しかし失業率は09年の5・08%から、労働力人口の減少などを背景に2・20%へと改善されている。

     海外では、リーマン時でも米国は連邦最賃を10・7%引き上げ、時給7・25ドル(718円)に、韓国は6・2%アップの4千ウオン(320円・当時)に引き上げている。

     新型コロナによる景気悪化と雇用危機の要因は内需不足であり、賃金の底上げと雇用の拡大が重要だ。最賃抑制と雇用破壊の誤りを繰り返してはならない。

     

    ●政府は「公約」実現を

     

     最賃は19年までの4年間で毎年3%程度引き上げられ、全国平均は901円となった。背景には、10年の政労使合意による「20年までに全国平均1000円を目指す」と、15年の「年3%程度引き上げ」の政府公約がある。

     しかし現行の901円は公約に背く低水準だ。地域間格差は沖縄など790円から東京の1013円まで223円もある。政府は昨年、初めて「地域格差に配慮」を提起。1円だが、16年ぶりに格差が縮小した。最賃の低いC、Dランク道県の引き上げは重要課題だ。

     最賃の影響率は14%に拡大し、働く人の7人に1人に及ぶ。さらに新型コロナ禍で国民の暮らしを支えるエッセンシャルワーカー(必要不可欠な労働者)の小売業、医療・福祉などは最賃近くで働く人が多く、水準の引き上げは急務の課題である。

     連合の神津里季生会長も6月18日の会見で「近年の改定3%を下げる必要はない」と強調している。

     

    ●ILO最賃条約踏まえ

     

     最賃改定では先進諸国並みの水準実現も重要だ。国際労働機関(ILO)の最賃条約は水準について「生計費を充足し、組織労働者の協約賃上げ」「国内の一般的標準賃金」参照と規定している。連合も今年の最賃方針で「先進諸国並みの水準(日本より約20~40%高い水準)も意識」した改定を掲げた。

     先進国の最賃(19年)は、ルクセンブルクが1445円、フランス1154円、オランダ1141円、ドイツ1058円など。日本は901円と低い。平均賃金と最賃との比較もフランスは61%、ニュージーランド60%、オーストラリア53%。日本は44%である。

     最低生計費は全労連調査で北海道から東京、鹿児島まで全国26都市でほぼ1500円で共通している。

     日本のような地域別最賃は9カ国に過ぎず、59カ国が全国一律最賃制であり、世界共通の制度実現も重要課題となる。

     

    ●全国一律への動き 

     

     コロナ禍だからこそ最賃アップへの新たな動きもある。

     日本弁護士連合会は6月3日、荒中会長声明を発表し、政府に「最賃引き上げと中小支援、全国一律最賃制度の実現の検討」を迫っている。

     自民党の最賃全国一元化推進議員連盟は6月11日、コロナ後の「最賃緊急提言案」を作成。中小企業支援の財源として大企業の内部留保450兆円への0・5%課税(2兆2500億円)に踏み込んだ。

     全労連などは6月4日、院内集会を開き、全国一律最低賃金制を求める国会請願署名11万筆を与野党議員に提出。紹介議員は自民、立民、国民、共産、社民、れいわ、社保など9党・会派82人へと広がっている。

     政府の全世代型社会保障検討会議で連合の神津里季生会長は「この(コロナ禍)状況だからこそ、最賃改善の歩みは止めるべきではなく、しっかり上げていくこと」と述べている。

     

    ●問われる中小支援

     

     とりわけ中小企業の支援強化が重要となっている。

     中小企業の賃金底上げを支援する業務改善助成金は7・8億円と少額で、設備投資条件などで使い勝手が悪いとされている。

     フランスは社会保険料の使用者負担軽減、米国と英国は減税、韓国では最賃引き上げで中小に1人時給1500ウオン(約130円)を支給する雇用安定資金制度もある。

     全労連は中小支援提言(中間報告)で業務改善助成金4・5兆円、社会保険料減免など3・3兆円や公正取引実現などを掲げる。

     連合は最賃引き上げなど労務費上昇分の取引価格への転嫁や付加価値の適正配分を重視している。

     コロナ禍が深刻な英国では4月から最賃を6・2%アップし、8・72ポンド(1186円)に引き上げた。最賃はナショナルミニマムの基盤だ。暮らしと命を優先するポストコロナ政策と相まって、日本も先進諸国並みの水準と最賃制度の実現が求められている。(ジャーナリスト・鹿田勝一)