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    〈働く現場から〉新型コロナで〃闇の職安〃へ/ジャーナリスト 東海林智

     特殊詐欺の「受け子」の仕事に手を染め、逮捕されたのは女性の派遣労働者(21)だった。前回記したように、彼女は拘留中で、詳しい取材はかなわず、事件の背景はまだわからない。けれど、2008年のリーマンショックの際、生活に困窮した多くの派遣労働者を取材した経験からピンと来るところがあった。当時の取材メモをひっくり返し、そこに記されたある人物に連絡を取った。

     

    ●取材メモから

     

     その人物とは、当時、歌舞伎町の外れにあった性風俗の店で店長を務めていた男性だ。派遣村当時、村に助けを求めに来た労働者はほとんどが男性だった。当時、雇い止めや解雇の被害を受けたのは、男性の多い製造業務派遣が中心だったとはいえ、派遣労働の分野は女性労働者の方が圧倒的に多い。景気が悪化し「派遣切り」が横行していた年末、同じ派遣で働く女性が、どのように年末を乗り切ったのかを取材する中で出会ったのだ。

     彼は当時、何人もの女性を面接、風俗店に採用した。多くが、派遣や契約社員など不安定雇用で働いていたという。その時、彼はこう言っていた。「この仕事にくる女性は、当たり前だけど、何らかの理由がある。仕事がなくなって来る女性は、ある意味冗舌に話すよ。私は悪くない……って言いたいんだよ」。私は、彼が面接した中の1人、日雇い派遣の女性に取材したこともある。

     

    ●派遣村の時より深刻

     

     今回、数年ぶりに彼に連絡を取った。「困窮した女性が風俗業に流れてきていないか」と率直に聞くと、「半分当たりで、半分外れ」と話し始めた。

     緊急事態宣言が解除される前後から、働きたいとの問い合わせが増えたのだという。だから、「半分当たり」。だが、それまでは、風俗で働きたくても無理だった。「緊急事態宣言の頃は、店を開けたって、客なんかほとんど来ない。ソーシャルディスタンス(社会的な距離)なんて、保ってやれる商売じゃないからね」。風俗店も飲食店同様、軒並み店を閉めていた。「闇でやってた店もあったけど、働く方も行く方もおっかなくって」。もっともな話だ。あの人通りの途絶えた街で、風俗だけが営業できるはずもない。だから、「半分外れ」なのだ。

     

    ●「自粛」で生活が困窮

     

     今回、一斉に社会の動きが止まる中で、不安定雇用の労働者たちは、休業補償などがない中で仕事を失っていった。政府の支援もブレにブレ、自らの生活がどうなるか一向に分からなかった。4月に実施された「いのちとくらしを守るなんでも相談会」に全国から42万コールもあった事実は、いかに多くの人が不安の中にいたかの証拠だ。

     自粛期間が長引く中、徐々に手持ちの金は減る。仕事はない。家賃も払えなくなってくる。生活は追い詰められていった。詐欺に手を染めた彼女も、アパートの家賃を滞納していた。滞納を続ければ、住む場所を追い出されてしまう。最後の手段として、風俗産業を選んだとしても、前述の通り、営業もしていない、していてもコロナへの恐怖で客も付かないような状況の中では、そちらに行くこともできない。いよいよ生活が立ちゆかなくなった。

     

    ●即日、即金、高収入?

     

     追い詰められた彼女は、仕事がないかスマホで「即日、即金」と検索する。すると「即日、即金、高収入」の仕事がヒットする。そこにダイレクトメール(DM)を送った。〃闇の職安〃が口を開けて待っていたのだ。(このテーマ続く)