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    「行政の劣化招くのは必至」/政府の生活保護業務委託方針/弁護士や関係職員が批判

     生活保護のケースワーク業務を民間委託しようとしている政府方針に対し、弁護士や関係職員が懸念を表明している。7月12日には生活保護問題対策全国会議がこの問題でオンライン集会を開き、「委託化が生活保護行政の劣化を招くのは必至。しかも、現行法では違法・脱法行為になる」と批判した。

     オンライン集会は、官製ワーキングプア研究会と非正規労働者の権利実現全国会が後援。約180人が視聴した。

     ケースワーク業務の民間委託方針は、2019年12月に閣議決定された。地方自治体からの要望を踏まえた対応だとされている。その内容は①現行法で委託が可能な業務については2020年度中に措置する(2)委託困難な業務は「委託を可能にすること」を検討し、21年度中に結論を得る――というものだ。

     花園大学の吉永純教授によれば、生活保護のケースワーク業務は利用者の家庭を訪問して面接・相談を行い、支援すること。生活保護法で福祉事務所長の指揮監督を受けるよう定められており、所長の指揮監督が及ばない外部委託は想定されていないという。

     立命館大学の桜井啓太准教授も「法律によって、保護の決定と実施は委託できない。一部委託は違法、あるいは脱法だ」と言い切る。

     

    ●違法・脱法を合法化?

     

     しかし、自治体現場では非常勤化と併せて委託化が進んでいる。大阪市や名古屋市、静岡市では「家庭訪問調査員」などの名称で、利用者宅への「訪問調査」が行われているという。

     桜井准教授は「本来ケースワーカーが担うべき保護の決定・実施のための訪問調査を、委託で代替えするなら違法・脱法になる。ケースワーカー業務へのプラスアルファとして、質の向上・機能強化を目指す訪問調査なら実施できるという論理で行われている」と指摘した。「現実には質向上に見せかけた保護決定・実施のための調査がやられているのではないか。実態は限りなくグレーだ」

     政府が外部委託しようとするのは、こうした「違法・脱法」行為の合法化が狙いではないか。その背景には、12年の総選挙で自民党マニフェストが「ケースワーカーの民間委託」を提起していた影響もある。

     

    ●現場から声上げにくく

     

     委託化でもケースワーカーの負担は軽減されない。

     昨年まで大阪市のケースワーカーだった谷口伊三美さんは「1人当たりの保護世帯担当数は、18年時点で134(国の目安は80世帯)。政令市の中でも突出して多い」と指摘する。委託化と非常勤化が進めば、常勤ケースワーカーの数は減らされ、管理・事務作業が増えるだけ。結果としてケースワーク業務が手薄になるという。

     労働問題に詳しいジャーナリストの竹信三恵子さんは「公共サービスの民間委託は、自治体本体の責任回避に加え、現場から声を上げにくくするのが狙いではないか」と指摘。委託を進めることで、行政に現場の実情がフィードバックされなくなり、ケースワーク業務の質が劣化する恐れがあると述べた。その上で、公共サービスへの予算の拡充と自治体労組による関与、住民との共闘で質の拡充を目指す取り組みが求められると提起した。

     

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    コメント: 2
    • #1

      枕月翠 (木曜日, 03 9月 2020 14:00)

      現在、大阪市で生活保護の高齢嘱託職員として保護を受けている高齢者宅の訪問業務をしております。
      在宅確認と生活が維持できているか、金銭等の不正がないか確認しに行っております。仕事について詳しい説明やアドバイスはなくほぼぶっつけ本番です。同じ仕事の先輩に聞いたりしますがとても忙しいのであまり取り合ってもらえません。
      金銭的な事等、ケースワーカーではないので何の決定権もないので困ります。その上、資産申告書等の書類の記入や説明を訪問に行った時にやらされます。大事な個人情報を一年契約の非常勤職員が扱ってもいいのかと思い悩みます。
      区役所によって仕事量も違うようです。
      保護を受けている方が自宅で孤独死で亡くなった場合、本人確認もさせられます。かなり精神的にきつく不眠にもなりました。
      こうした事の適切な説明や研修もないのが現状です。
      来年3月までの任期ですから全うするつもりですが、精神的に辛く無理かもしれません。
      ケースワーカーが訪問し、責任を負うのが筋ではないかと思います。

    • #2

      名無し (火曜日, 22 9月 2020 12:33)

      行政のスリム化、ムダを省く事は大切である。
      が、それは不要な二重行政、未だに紙媒体に頼る日常業務の改善等にのみあてはまる事であり、国民の最低限度の生活維持に必要不可欠な業務についてはその限りではない。当たり前ではないか。
      極論めいてるが、他を削ってでも福祉関連業務は削ってはならない。民間委託など以ての外。ド素人にケースワークがこなせるのか? 受給者のプライバシー保護を鑑みても大いに問題がある。

      今は元気に働いていても、将来はどうなるか分からない。新型コロナウイルスが巻き起こした災禍で思い知らされたであろう。保健所を縮小し続けた結果どうなったか。何でもかんでも民営化すればいいという事では決して無い。

      「国栄えて 民滅ぶ」
      政府は国民を何だと思っているのか。