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    〈働く現場から〉〃闇の職安〃の報酬とは/ジャーナリスト 東海林智

     ネット上の通称〃闇の職安〃から紹介された特殊詐欺グループで、だまし取ったカードで金を引き出す「受け子」に手を染めてしまった派遣労働者の女性(21)。彼女は「10件以上やった」と供述している。受け子は、派遣の仕事がなくなった彼女の〃仕事〃だったのだ。

     もう少し、背景を知りたいと思い、風俗店の店長に話が聞ける女性はいないかと頼むと、「少し時間くれる? うちに来てる子から探してみるよ」と自信あり気に了解してくれた。彼が「仕事を失って面接に来る子はみんな冗舌だ」と言っていたのを思い出した。半信半疑で待つと、5日後に連絡があった。

     

    ●現れたのはフツーの子

     

     6月半ばの午前中、都内のJR新大久保駅近くのエスニックなカフェで待ち合わせた。この頃の新大久保かいわいでは、あらゆる店で使い捨てマスクを販売していた。供給不足がうそのように、1箱3千円以上していたマスクのディスカウントが始まっていた。自粛が明けたように街が動きだしていた。そこは彼女の職場でもあった。

     彼女は顔の半分以上を優に覆うような大きなマスクをつけて現れた。その大きさに少しびっくりしていると、「格好悪いでしょ。裁縫は苦手なんです。けど、ちょっとでも節約しないとと思って」とはにかんだ。ありきたりな表現だが、どこにでもいる普通の子だ。 店長からは二つ言われていた。嫌がったら聞くのをやめることと、少しでも良いからお礼を渡すこと。どちらも、当然の要求だ。取材にお金を払うのは難しいところだが、困窮している人の大事な時間を使わせてもらっているのだから、考えなければならない。

     彼女は初めての取材に戸惑っていた。自分の体験したことをちゃんと話すつもりだから、名前や個人が特定できるような書き方は絶対にしないこと、警察にも言わないことを守ってほしいと言われた。約束を守ると伝え、話を聞いた。そのため、出身地などプライベートな部分はかなりぼかした形で書く。

     

    ●詳細なだましの手口

     

     彼女も、闇の職安からつながり、特殊詐欺グループの「受け子」のリクルートを受けたという。連絡の受け取り方などは省略するが、逮捕された女性と同じように、直接の指示役としかコンタクトはなく、その指示役から細かな手口を教えられる。大部分は、被害者に会ってカードをだまし取る時にどのようにふるまうか、詳細なだましの手口などだ。

     例えば、カードを奪いに行く時は、同じ白い封筒を2枚用意し、そのうち1枚にカードを入れさせ、暗証番号を書いた紙とともに封をさせる。そして、「新しいカードが来るまで封を開けないで」と言い、相手のお年寄りの隙を見て、自分の用意した封筒とすり替えるなどだ。封筒が同じだから、しばらく被害者はカードを盗まれたことに気付かない。

     

    ●成功報酬プラス交通費

     

     指示役からは最初に〃労働条件〃を提示される。「成功報酬は引き出した金額の5%。それとは別に現場までかかった交通費の実費」。例えば、うまく詐欺に成功してカードを盗み、ATMから現金100万円を引き出せたとする。現場までは電車で往復4千円。この場合、報酬の5万4千円を100万円から抜き取り、残りの金を指定されたロッカーに入れる。これで仕事と報酬の受け渡しは終了だ。(このテーマ続く)