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    レポート〈医療現場のリアル〉上/最前線で新型ウイルスに対応

     新型コロナウイルスの感染拡大に最前線で立ち向かう医療従事者は何に悩み、苦しんでいるのか、そして労働組合はどう対応したのだろうか。第2波が迫る中、院内感染が起きた、首都圏のある病院で働く医療従事者らに話を聞いた。

     4月、感染者が急増し発熱患者(感染疑いのある患者)を受け入れる病院が足りなくなった。救急車による搬送も困難となる中、この病院は「地域医療を守る」という社会的責任を果たそうと受け入れを決断。感染症対応の病棟を整備し、外来の感染症対応室も設置した。1回目のPCR検査では陰性だったが2回目の検査で陽性反応に変わった患者が出て、院内感染が起きた。

     

    ●恥ずべきことではない

     

     感染対策の専門知識を持つ看護師はこう訴える。「院内で感染させてしまった患者には本当に申し訳ない。院内感染を起こしてはならないと肝に銘じている。だけどこれだけは言わせてほしい。病院から感染症患者が出たことは恥ずべきことではない。多くの病院が断る患者を、私たちは受け入れてきた。未知のウイルスに必死になって立ち向かっているんです」。保健所と緊密に連携をとり最善策を講じているが、それでも完全に感染を防ぐのは難しい。新型コロナウイルスの怖さだ。

     

    ●対策加わりさらに多忙

     

     病院には多くの外来患者がやってくる。医療従事者からは「自分が感染の媒体になってしまうのではと不安。対策を徹底しても正解が分からず、つらい」という声が上がっている。

     加えて通常の医療行為ができない大変さがある。ある看護師は「今まではナースコールが鳴れば飛んでいき、すぐに処置ができた。今はたんの吸引も防護服などフル装備で処置しなければならない」と話す。発熱患者の対応には1時間以上かかる場合もあり、防護服の中は汗でびしょぬれだ。水分補給をするには着ている防護服を廃棄しなければならない。別の看護師は「防護服不足の中、そんなことは容易にできない」と語った。

     入院患者の食事支援などに携わる男性介護福祉士は「医療用マスクなどを付けているため、こちらの表情を伝えることができない。これが新しい働き方なのかと悩んでいる」と話す。

     手術室で働くベテランの看護助手は、防護具の洗浄と消毒に多くの時間が割かれるという。「本来は1回限りの使用なのに、絶対数が足りず仕方なく洗浄している。いまだに十分な量は足りていない」。

     リハビリを担当する作業療法士は、1人の患者に接する時間が20分を超えるため常に濃厚接触となり、感染の不安があるという。器具はその都度消毒しなければならず、業務が増えている。リハビリの外来担当者は受診控えで患者数が減る一方で、入院患者の担当者は通常業務に消毒などの作業が加わり多忙。業務量の差が激しいが感染リスクを避けるため、応援に入ることもできない。

     

    ●孤立感抱えて働く

     

     医療従事者から異口同音に出たのが周囲からの差別と孤立感だ。

     ある従事者は同居する娘から「病院に(働きに)行かないで。それでも行くなら来年3月まで(住まいを)出て行って」と言われ、急きょ1人暮らしをしながら働いている。「医療従事者の家族が、職場から『仕事に来るな』と言われたり、保育園が子どもを預かってくれなかったり。それで辞めたスタッフもいる」との話も出た。「励まし合いたいのに話もできない。孤立感を抱えたまま仕事に追われている」と話す姿もあった。(つづく)