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    大勢は1~3円のプラス/地方最賃審/近年で最低の改定に波乱も

     地方最低賃金審議会の決定が8月7日までに8割強で済み、大勢が判明した。同日段階で0円が1都1府1県(大阪は専門部会)、残りが1~3円となっている。中央最賃審が目安を示さず近年で最低の引き上げが相次ぐ中、波乱も起きた。東京は労働側委員3人が抗議の退席。大阪は専門部会の採決で公益の賛否が割れた。一方、熊本では3円が示され、今年もリード役となった。各都府県の労働側委員に聞いた。

     

    ●怒りの抗議文読み退席

     

     東京地方最賃審は5日、「現行通り」を答申した。0円は2003年以来。専門部会の労働側委員3人全員が専門部会と、答申を決める総会で、公益委員への抗議文を読み上げ退席する異例の展開となった。東京労働局は「退席はこの10年はない。それ以前は記録もなく分からない」。

     地方最賃審では、公益・労使計9人で専門部会を構成し金額審議を4~5回行う。全会一致だとそこで決着するが、多数決だと総会(計15~18人)で再度採決し答申を示す。

     使用者側は終始0円を主張。労働側は最終盤、有額を求めたが、公益は0円の見解を提示した。

     労働側の吉岡敦士連合東京労働局長は「組合がある労働者は賃金が上がっている。(小零細企業の賃上げ率を示した国の資料)第4表もAランクは1・4%上がっていた。それなのになぜ、新型コロナ感染拡大下で、命の危険を感じながら最賃近傍で働いているエッセンシャルワーカーの賃金が上がらないのか。0円にしなければならない理由はない。経済団体の言い分そのままだ」と憤る。

     最賃が上がれば雇用が失われるという主張の根拠は示されていない。プラスの経済指標もある。明確なデータを示さず、ただ「雇用が厳しい」という使用者側の主張だけを見た結論だ――と批判する。

     専門部会では退席しようとした際、公益の一人から今後の審議からの排除をほのめかされたという。吉岡氏は「『全然かまわない』と言ってやったよ。委員になりたい労組はほかにもたくさんある。私たちはいろんな労働団体を代表して交渉している。その人たちに申し訳ない。公益は東京労働局との長年の信頼関係をすべてぶち壊した。労働組合をなめるんじゃないということだ」。

     総会では抗議文を読み上げ、最後に「不本意な回答しか引き出せなかった責任をとり、退席する。公益委員の皆様は都内の最賃で働く人達のことを一時も忘れず、次年度の交渉にご英断を願う」と述べ、席を立った。傍聴席から拍手が沸き起こった。総会では、公益委員の一人が公益見解に反対を表明した。

     吉岡氏は西友労組出身。2000年代初め、同労組書記長としてパート労働者の組織化を手掛けている。

     

    ●数値が議論されず

     

     大阪も異例の展開となった。使用者側が最後まで0円を譲らず、専門部会では2013年以来の採決となった。0円の公益見解に、公益委員の1人が反対を表明し、賛成5対反対4の僅差で議決された。20日の総会での採決を経て最終決定となる予定だ。

     労働側は、底上げの流れを止めてはならないなどとして、有額の1円にまで主張を引き下げて粘った。

     労働側の黒田悦治連合大阪副事務局長は「今回は総じて(経済指標などの)数字の議論ができなかった。今春闘での中小、非正規のベアや、賃上げ率(第4表)も主張したが、使用者側は『非常事態で雇用を守るためには別の判断が必要』と全く乗ってこなかった。公益は当初、経済団体の調査にも悪くない数字もあると述べていて、これは取れそうだという感触を得ていたが、採決当日になって急にトーンが変わった」と振り返る。

     20日の総会で最終決定となる予定だが、見通しは明るくない。黒田氏は「同じAランクでも埼玉や千葉、千円を超えている神奈川でも難航せず有額の答申が出ている。なぜ大阪がゼロなのか」といぶかしむ。

     

    ●3円の流れ、作り出す

     

     熊本地方最賃審は5日、今年の審議で初めて3円を答申し、その後のDランク底上げの流れを加速させた。豪雨災害で甚大な被害を受けたが、公益がデータと地域間格差是正を重視。近年で最低の引き上げ幅ではあるが、使用者側へのやみくもな同調姿勢とは一線を画した。

     熊本には政令指定都市があるが、最賃は最低額の790円。労働側は当初、3%の24円、800円到達などを主張。使用者側は0円に固執し、並行線をたどった。猿渡研一連合熊本副事務局長は「最終的には島根の2円と福岡の1円を参考にした。16年の熊本地震の際、使用者側は上げるべきでないと主張したが、復興需要で人手不足が強まり、結局上げてよかったという認識があった。そんな経験も生きたのだと思う」と話す。

     明るい材料を集めた。豪雨災害を全額補償するとの国の約束、全国平均や福岡より好調な有効求人倍率、最賃を上回るハローワーク求人の下限(825円)、高時給の小売チェーン・コストコの進出――など。

     中賃の答申に「地域間格差の縮小」が入ったことも引き上げの追い風になった。労働側は、福岡との県境では時給格差が51円あると写真付きでアピール、「コンビニの水の価格は同じなのになぜ時給は違うのか」と訴えた。

     昨年の審議では『最賃を上げると会社がつぶれる』と言う使用者側に、最賃審会長がエビデンス(根拠)を示すよう求め、データを示せなかったという一幕があった。猿渡氏はデータ重視の近年の公益委員の姿勢が、今回の決定につながったとみている。