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    〈働く現場から〉特殊詐欺の受け子(4)/家賃と食費に困り果てて…/ジャーナリスト 東海林智

     前回(7月21日付)、新宿の風俗店店長から紹介された女性が〃闇の職安〃から、特殊詐欺の受け子へとつながっていく流れを紹介した。犯罪にも関係することなので、人物が特定できることは書いていない。

     約束した場所に来てくれた彼女に、最初に確認した。何回詐欺に関与したのか、それで得た報酬はいくらかの2点だ。何十件という犯罪に関わり、多くの金額をだまし取っていると分かれば、さすがに通報するか、自首を勧めなければならない。もちろん、少額だったり、回数が少なかったりしたら許されるわけではないが。

     それでも最初に確認しておくべきだと考えて切り出した。彼女はカフェのメニューに視線を落としたまま、「やってません。カードをだまし取るのに失敗しました」とぶっきらぼうに答えた。

     

    ●冷静な判断できず

     

     受け子の報酬は、下ろした(だまし取った)金額の5%だった。この額が多いか、少ないか。逮捕されるリスクを考えれば、圧倒的に割の悪い仕事だろう。ATMを使ってお金を下ろす場合、上限は50万から100万円だ。指紋認証など本人確認が厳重なカードの場合100万円も下ろせるが、詐欺で得たカードで下ろせるのはせいぜい50万円。本人が限度額を変更している場合など、多くて100万円だろう。

     下準備は犯罪組織がやったとしても、カードをだまし取って、防犯カメラに映りながら最大5万円ほどにしかならない。95%は犯罪組織に〃搾取〃される。

     「今思えば、ばかみたい。でも冷静な判断なんてできなくなっていた」。彼女は闇の職安を検索した当時を振り返った。2月の頃はまだ、風俗店にも客があった。だが、3月の声を聞くころにはパタリと客足が途絶えた。そのうちに店自体が営業自粛で閉店し、店舗型ではなく、デリバリーという別のスタイルの風俗に変えてみたが、事態は好転せず。2年近く風俗店で働いていたが、貯金は50万円もなかった。休業補償もなく、貯金はどんどん目減りした。

     

    ●心が痛んだけど

     

     「まず、家賃に困った」。けれど、家賃を集める民間業者は容赦がない。コロナ禍でも、家賃が1日遅れれば矢の催促だ。「支払いが滞ったら出て行ってもらう」と繰り返す。食費を削り家賃を支払った。6万2千円の家賃が重い。100円で買うカップ麺は、より量の多い乾麺に変わり、1玉28円のうどん……。調味料が切れて、食費の削減が限界だと思った時に、何でも良いから仕事をと、〃闇の職安〃を検索していた。

     その後は、特殊詐欺のリクルーターと連絡を取り合い、前述したような特殊詐欺の〃ルール〃をレクチャーされたのだという。「私の場合、財務省職員という設定で、白いブラウスでスーツっぽい格好で行くように指示されました」。キャッシュカードが偽造されて使われているので、封印して保管するという筋書きだった。

     不安そうな顔をした女性は80歳を超えていそうだった。自分の祖母を思い、心が痛んだ。カードをすり替えた。老女の家が見えなくなる角を曲がると、全速力で走り出した。転びそうになりながら、全力で走った。来た時とは別の道を。だが、途中で走るのをやめた。「だって、住宅街を全力で走るスーツ姿の女って怪し過ぎる」。あとは現金を下ろすだけだった。

     ここまで、彼女は一気に話した。でも、小さなうそをついていたことが分かる。最初は「カードをだまし取るのに失敗した」と言っていた。なぜうそをついたのか。(続く)