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    〈グローバル化の陰で〉(15)/危機に立つ米国郵政公社/米大統領選挙が追い打ち

     米国では新型コロナウイルスのまん延が今も深刻な事態を引き起こしている。私企業だけでなく、国民に不可欠な公共サービスである郵便もその一つだ。米国では1971年に米国郵政省から「米国郵政公社(USUP)」へと全ての郵便事業が移管され、現在も全国の郵便事業は郵政公社が担っている。広大な国土を持つ米国で、手紙や小包を安価で運ぶ郵政公社は米国民からも愛され、必要とされている。
     しかし郵政公社の経営は、これまでも決して安定的ではなかった。2000年以降、電子メールの普及により郵便物の量は激減。09年度決算で約38億ドルの赤字を計上した。これに対し、郵政公社は約4万人の人員削減、残業カット、運送費切り詰め、退職者の健康保険合理化など総額10億ドル相当のコスト削減を打ち出した。
     03年には、将来の膨大な赤字計上を予測して公社が負担する従業員の年金90億ドル分を削減することを決定。さらに09年、退職職員の医療費負担を40億ドル削減した。躍進するアマゾンやDHL、フェデックスなどの民間宅配企業との競争も強いられてきた。

    ●郵便投票阻止の動き

     こうした中、コロナ禍で郵政公社は存続の危機にさらされている。郵便物の取扱量が激減し、経営は壊滅的な打撃を受けている。米国の非営利団体は4月16日、連邦議会に対し「パンデミック禍での郵便サービス網は処方薬や食料品を受け取る重要なインフラであり、国民にとってライフラインだ」と訴え、航空会社やホテル、レストランなどと同様に政府による救済パッケージの対象とするよう求めた。
     郵政公社へのコロナ対策予算をめぐり、米国ではこの間大きな論争が起こっていた。最大の理由は、11月の米国大統領選だ。コロナ禍の中で、大統領選では郵便による投票が激増すると見られているが、トランプ大統領はかねてから「郵便投票は自身の選挙戦に不利になる」との考えを主張。そのため、「郵便投票は不正確であり、不正の温床だ」などと繰り返し発言し、郵便投票を阻止するような動きにさえ出ていた。

    ●友達を公社トップに

     その一つが、郵政公社へのコロナ対策予算の出し渋りだ。8月には追加補助金を認めない考えを示していた。当然、民主党はこれに猛反発し、「トランプは投票で敗北することを阻止しようとしている」と批判している。
     しかも複雑なことに、トランプ大統領は5月、郵政公社のトップに自らに多額の寄付をしてきたルイ・デジョイ氏を任命していたのだ。デジョイ氏は、トランプ大統領の意向に沿って郵政公社を経営するために任命されたと言ってもいい。大統領はとにかく郵政公社をやり玉に上げて郵便投票を阻止し、自らに有利な選挙戦を実現しようとしているのだ。

    ●「公社守れ!」と労組

     民主党支持者はもちろん、郵政公社の労働組合、そして公社の存続を求める一般の人々からはトランプ大統領のこうした言動に大きな批判が集まっている。有力NGOであるパブリック・シチズンは、トランプ大統領の郵政公社への「攻撃」は不当であるとして裁判所に提訴した。
     郵政公社労働組合は「郵政公社を守れ!(SaveUSUP)」というキャンペーンを始め、全国で署名活動を行う。コロナ禍であるにもかかわらず、全米で「郵政公社を守れ」と書かれた横断幕を持った人たちが地域住民に訴えかける草の根の運動も広がっている。民主主義の下での大統領選と、人々のための公共サービスの生き残りをかけて、米国市民は激しく闘っている。(アジア太平洋資料センター共同代表 内田聖子)